雇用促進企業に対する税制優遇措置

 雇用を増やす企業に対する税制優遇措置を定めた税制改正法が6月末に公布されています。その適用を受けるためには雇用促進計画を作成しなければならないことになっていますが、その受付が来月1日から始まります。制度の概要は以下の通りです。
雇用促進税制 (厚生労働省HP)
20110801_雇用創出税制優遇制度01
20110801_雇用創出税制優遇制度02

老齢基礎年金繰下げの損得計算

 何らかの理由で老齢基礎年金を繰下げたときの損得計算を考えてみたいと思います。年金の繰下げを希望されるような方は、一般的に健康に自信があり、長生きされるということを前提として考察して行きます。

1.老齢基礎年金の繰下げ

 まず、国民年金法は、繰下げについて28条で次のように規定しています。

(支給の繰下げ)
第28条 老齢基礎年金の受給権を有する者であつて65歳に達する前に当該老齢基礎年金を請求していなかつたものは、厚生労働大臣に当該老齢基礎年金の支給繰下げの申出をすることができる。ただし、その者が65歳に達したときに、他の年金給付(付加年金を除く。以下この条において同じ。)若しくは被用者年金各法による年金たる給付(老齢又は退職を支給事由とするものを除く。以下この条において同じ。)の受給権者であつたとき、又は65歳に達した日から66歳に達した日までの間において他の年金給付若しくは被用者年金各法による年金たる給付の受給権者となつたときは、この限りでない。
2.66歳に達した日後に他の年金給付若しくは被用者年金各法による年金たる給付の受給権者となつた者が、他の年金給付若しくは被用者年金各法による年金たる給付を支給すべき事由が生じた日(以下この項において「受給権者となつた日」という。)以後前項の申出をしたときは、次項の規定を適用する場合を除き、受給権者となつた日において、前項の申出があつたものとみなす。
3.第1項の申出をした者に対する老齢基礎年金の支給は、第18条第1項の規定にかかわらず、当該申出のあつた日の属する月の翌月から始めるものとする。
4.第1項の申出をした者に支給する老齢基礎年金の額は、第27条の規定にかかわらず、同条に定める額に政令で定める額を加算した額とする。

 従って、66歳に達した日後に付加年金又は被用者年金各法による老齢若しくは退職を支給事由とする年金を除く他の年金の受給権を取得した場合、次の3つの中から選択することが出来ます。

(1)支給繰下げの申出を行い、他の年金の受給権を取得したときから増額された老齢基礎年金を受給する
(2)支給繰下げの申出を行わず、65歳から他の年金の受給権を取得したときまでの本来受けるべきであった老齢基礎年金を遡及請求(一括受給)し、他の受給権を取得した日以後は、増額されない老齢基礎年金を受給する
(3)他の受給権が発生した年金を受給する


2.繰下げの損得

 さて、繰下げの申出を行った場合の増額率ですが、昭和16年4月2日以後に生まれた者については、次の式から求められる増額率を本来の年金額に乗じて求められた額が年金額に加算されます。ただし月数については60月(5年)が上限とされています。従って、年齢別増額率は以下の表のようになります。

増額率=(受給権取得月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.007

老齢基礎年金繰下げ増額率新
そこで、20歳から60歳まで40年間第1号被保険者として保険料を納付し、かつ、付加年金の保険料も支払ってきた模範的な被保険者を例に損得計算をしてみると以下のようになります。

65歳時の年金額(平成23年度現在):884900円 (788900円+96000円)

70歳繰下げ時加算額:884900円×0.42≒371700円 (788900円×0.42≒331300円 96000円×0.42≒40300円)
68歳繰下げ時加算額:884900円×0.252≒223000円 (788900円×0.252≒198800円 96000円×0.252≒24200円)

 そこで、まず気になるのは、何歳で65歳から70歳までに受給するはずだった年金額を取り戻すことができるのかということだと思います。本当は現実的な割引率で現在価値に割引くことを考えなければならないのでしょうが単純化のために無視しますと、884900円×5÷371700円(68歳繰下げだと884900円×3÷223000円)の計算をすることで求められます。結論としては、約12年程(68歳繰下げでも同じ)かかり、およそ82歳位(68歳繰下げだと80歳位)ということになります。

 ところで、大正15年4月2日から昭和41年4月1日生まれの者については、その者の配偶者が20年以上厚生年金保険の被保険者又は共済組合の加入員であった場合、その配偶者に加給年金が加算されて支給されます。その者が65歳に達して老齢基礎年金の受給権を取得すると、その配偶者に対する加給年金が無くなる代わりにこの老齢基礎年金に振替加算が行われます。しかし、振替加算は本人の老齢基礎年金に加算されるものなので、本体たる老齢基礎年金を繰下げてしまうと振替加算も繰下げ支給開始の時まで支給は停止されてしまいます。しかも、振替加算の額の増額は行われません。振替加算の額は、15200円から227000円(平成23年度現在)です。この振替加算が付く人は、5年間で最低でも76000円を放棄することになります。

 ところが、昭和16年4月1日以前生まれ(平成23年4月現在既に70歳以上)の人の場合には、当該年金の受給権取得日から起算して支給の繰下げを申し出た日までの期間(以下「計算期間」という)に応じて次のような高い増額率になっていたため、運用の細かな差異を無視して現行に当てはめてみると、何と6年足らずで65歳からの年金受給者に追いつき、76歳の時には逆転しています。付加年金を全く掛けていなかった人でも6年少々で付加年金を40年間掛けていた人に追いつき、こちらも77歳で完全に追い越してしまいます。

老齢基礎年金繰下げ増額率旧
70歳繰下げ時加算額:884900円×0.88≒778700円 (788900円×0.88≒694200円 96000円×0.88≒84500円)

「マズローの欲求段階説」異論

1.マズローの欲求5段階説

 誰でも耳にしたことはあると思いますが、今さらながらマズローの欲求5段階説について考察したいと思います。Abraham Harold Maslow(1908年4月1日~1970年6月8日)は、米国の心理学者であり、ユダヤ系ロシア人移民の家庭に生まれました。マズローは、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生物である」と仮定し、人間を突き動かす最も重要な要因である基本的欲求を低次元の「生理的欲求」から高次元の「自己実現の欲求」までの5段階に分類しました。5段階の欲求は、次の通りです。

(1)生理的欲求(Physiological need)
(2)安全の欲求(Safety need)
(3)所属と愛の欲求(Social need / love and belonging)
(4)承認の欲求(Esteem)
(5)自己実現の欲求(Self actualization)

 マズローは、人間とは、満たされない欲求があるとそれを充足しようと行動するものだとし、また、欲求には優先度があって低次元の欲求が充足されるとより高次元の欲求へと段階的に移行するものと考えました。段階は一方通行ではなく、双方向に行き来することがあるとし、例えば、ある人が高次元の欲求の段階にいたとしても、病気などが原因で低次元の欲求が満たされなくなると、一時的に段階を降りてその欲求の回復に向かい、その欲求が満たされて初めて元にいた欲求の段階に戻ることができると考えました。さらに、最高次元の自己実現欲求は特別の欲求で、一度充足したとしてもより強い充足を志向して行動するもの、つまり、満たされ尽くすことはないと考えました。
20110721_A.H.Maslow



2.自己実現欲求と承認の欲求

 このマズローの欲求5段階説について、沼上幹氏は著書「組織戦略の考え方」の中で面白い指摘をしています。マズローの説が人事やマーケティングなどの領域を中心とした実務家に人気がある理由として「ひとつは、豊かになるにつれて徐々により高次の欲求が重要になっていくという欲求の階層性が直感的にも経験的にも理解しやすいこと...もう一つの理由は、自己実現という考え方が美しくて、しかも『安上がり』だということ...各人が勝手に自己実現しようとし続けてくれるので、人事の担当者が世話を焼かなくても良い...。」からだと述べた上で、「生理的欲求が満たされ、安全・安定性欲求が満たされると、なぜか一足飛びに自己実現欲求の充足へと注意が向いてしまう。...実は自己実現欲求の追求という方向が美しく気高く、安上がりであるがゆえに、多くの人がそこに目を奪われ、所属・愛情欲求や承認・尊厳欲求などを忘れてしまうのである。」と述べています。

 沼上氏によれば、「企業組織のような社会システムを運営する上で日常的に一番重要なのは自己実現欲求などではなく、それよりも低位の承認・尊厳欲求である。...多くの人が、上司から、同僚から、部下から、この会社に不可欠な大事な人材なのだと承認され、感謝され、認められたいという気持ちに動かされて行動しているはずである。周りからのまなざしを一切気にせず、黙々と自己実現を追求している組織人など、少なくとも私は見たことがない。」ということになります。そして、この最重要視しなければならない承認・尊厳欲求を満たす術は、必ずしも金銭や地位に限定すべきではなく、「世の中には給料は増やせないけれども、本当に感謝していると、誠意のあるコトバで報いるという方法があるのではないか。ウソのコトバでごまかそうとするのではない。誠意ある真実のコトバで感謝し、承認することに意味がないはずがない。」と主張されるのです。

 このくだりでの沼上氏の結論は、「自己実現という美しくて安上がりなコトバは、その魅力ゆえに多くの人々を惑わせてきた。『地位とカネで報いることが出来ないのであれば、自己実現で報いれば良い』という浅はかな発想が蔓延し、真剣な評価のまなざしと、『頑張ったね』という誠意あるコトバのやりとりが重要だという当たり前のことを忘れさせてしまうのである。」ということになります。


3.財政再建の方法論

 沼上氏の「誠意あるコトバで報いる」などというのは一見子供だましのようにも思えますが、最近になって漠然と考えていたこととも平仄が合ったので長々引用して紹介致しました。それは、もはや待ったなしと小生などは感じている我が国の財政再建に関わる議論です。

 財政支出は、これからも乾いた雑巾を絞る思いで無駄を削ってい行かなければならないでしょうが、歳入の2分の1以上を公債発行に依存する現状は誰がどう考えても異常です。増税は近い将来必至と考えなければなりません。その際、どこを増税するかですが、柱となる税は、(1)所得税、(2)法人税、及び(3)消費税でしょう。この内、国際競争に打ち勝たなければならない(2)の増税は論外だと思うのです。そうでなくとも、経営者の発想が大企業を中心に超円高と電力不足で海外投資を優先する方向に向き易い状況です。国益と日本企業の利益とが一致している状況を全力で維持していかなければなりません。そこで、国際的には比較的低水準と見ることもできる(3)の税率引き上げはやむを得ないというように最近まで安易に考えていたのですが、デフレの蟻地獄から未だに抜け切れていない我が国で消費税引き上げを敢行したら、そこで日本経済は終わってしまう惧れが非常に高いと気付きました。

 そこで、一昔前の新自由主義、市場原理主義の流れには全く逆行するものですが、(1)の累進性の再強化による増税しかないのかなというのが、最近になって漠然と抱いている考えです。このことによる弊害は、お金持ちや優秀な起業家が海外に逃避して行ってしまう可能性が高まることです。そういった事態を少しでも回避するためには何をすれば良いのか。それは、我が国の伝統的な共同体意識を顕在化させ、強固なものにするための努力をすぐに始めること、その一環としてより説得力があって公平な所得の補足手段や社会保障制度を整備すると同時にお金をたくさん稼ぎ、税金をたくさん納めてくれた人を「がんばったね」という誠意のあるコトバで褒め称え、全国民からの感謝の気持ちが伝えられる文化と仕組みを作り出すことなのだろうというようなことを非常に漠然とした考えながら抱き始めていたところだったのです。

メンタルヘルス私論_その2

かつて雇用優等生であった我が国は、80年代後半の景気超加熱とその崩壊、その後の景気後退を打開するために導入された株主利益最優先主義と市場原理主義の米国流経営、そしてグローバリゼーションの進展を経て、今日雇用機会自体の喪失という救い難い惨状に直面することになりました。

一体どこで間違えたのか。平均賃金で我が国の30分の1というような国が台頭し、グローバリゼーションが新世紀に入ってからの大きな流れになったことは、止められなかったことなのかもしれません。そんな中で金融危機以後の急速な円高もさらなる試練となりました。

しかし、そういった一見不可抗力のように感じられる経済の大きな流れも大きな要因ではありますが、小生としては、景気超加熱の崩壊以後、日本的経営を捨てて無批判に米国流の市場原理主義的な経営を取り入れたことが今日の雇用機会の喪失とそのことがもたらした職場の荒廃などの様々な派生的な諸問題の根源だと考えたいのです。特に欧米流の経営哲学がその根本に内包していると思われる社会をゲゼルシャフト(Gesellschaft)と呼ばれる利害関係に基づいて結合した人為的な社会と地縁や血縁、友情で深く結びついた伝統的社会形態であるゲマインシャフト(Gemeinschaft)に峻別し、会社は利益を上げることを究極の目標としたゲゼルシャフト(Gesellschaft)の代表とする考え方は、日本の社会とその中の一組織である会社にはそぐわないのではないかと考えています。

つまり、そもそも日本の会社という職場は、目的追求集団であると同時に村社会であり続けるという矛盾に満ちた多面体であり、そのことによってもたらされる多少の非効率や不合理はそういうものとして受け入れられるべきだったという仮説です。

その仮説からいろいろなことが言えてくると思われるのですが、例えば、解雇を明確に「悪」と考える日本の労働法体系は、解雇制限が我が国に比べてはるかに緩慢な欧米流から見れば不合理なことかもしれませんが、「村八分」はむやみに使えない究極の選択ということからすれば、全く正しい結論と言えます。また、近年の非正規雇用の拡大やらパート労働者の増加がもしも解雇は「悪」のドグマに対する隠れ蓑として使われているのならば、これもまた誤った方向だということが簡単に分かります。

また、「心の健康管理の問題」は専ら予防に専念するというのが、この考え方から導かれる正しい結論ですが、これだけでは、うつ病に罹患する労働者が続出する現状に対して全然答えになっていないところが頭の痛い問題です。

離婚時の厚生年金分割制度

 離婚時の厚生年金分割とは、離婚をしたとき(事実婚の解消を含む)に厚生年金の標準報酬を当事者間で分割することができるという制度です。この年金分割制度は、離婚時の厚生年金の分割制度である合意分割制度(平成19年4月1日実施)と、離婚時の第3号被保険者期間についての厚生年金の分割制度である3号分割制度(平成20年4月1日実施)があります。


1.制度の概要

 離婚時の厚生年金の分割制度とは、基本的には婚姻期間中の厚生年金の標準報酬を当事者間で分割することができるとしたものです。

 まず、合意分割制度ですが、平成19年4月1日以後に離婚をし、かつ、当事者の一方が請求したとき、次の2つの要件に該当することを条件に厚生年金の標準報酬を当事者間で分割することができるとしたものです。

(1)当事者の合意又は裁判によって按分割合が定められていること
(2)原則、離婚をした日の翌日から起算して2年間の請求期限を経過していないこと

 按分割合とは、当事者双方の対象期間標準報酬総額の合計額のうち、年金分割を受ける側の持分を表したものです。例えば、分割前の元夫の対象期間標準報酬総額が1億円、分割前の元妻の対象期間標準報酬総額が4000万円とします。この場合、按分割合の下限及び上限は、裁判所が自由に定められるものではなく、以下のように法律で定められています。

4000万円÷1億4000万円<按分割合≦0.5

 次に、3号分割制度は、第3号被保険者期間について、平成20年5月1日以後に離婚をし、国民年金第3号被保険者であった人からの請求があったとき、次の要件に該当することを条件に、平成20年4月1日以後の元配偶者の厚生年金の標準報酬を2分の1ずつ当事者間で分割する制度です。

(1)平成20年4月1日以後に国民年金第3号被保険者期間があること
(2)原則、離婚をした日の翌日から起算して2年間の請求期限を経過していないこと


2.分割の効果

 厚生年金の標準報酬を当事者間で分割すると、当事者それぞれの老齢厚生年金等の年金額は、分割後の記録に基づき計算されることになります。この場合、分割を行った側の厚生年金は、元の標準報酬から、分割を受けた側に分割した標準報酬を控除した後の残額について、年金額が計算されます。また、分割を受けた側は、受給資格期間を満たしていることが前提条件になりますが、自身の厚生年金の標準報酬及び分割を行った側から分割された標準報酬に基づき年金額が計算されることになります。

 年金分割は、あくまでも厚生年金に係る話ですので、その効果は、厚生年金の報酬比例部分又は厚生年金基金の代行部分に限られ、老齢基礎年金等の額には一切影響はありません。


3.基本的な手続きの流れ

(1)年金分割のための情報提供の請求
 情報提供の請求は、日本年金機構に対して行います。当事者が一緒に行うことも、1人で請求することもできます。

(2)「年金分割のための情報通知書」の交付
 ①2人が一緒に請求した場合には、それぞれに交付されます。
 ②1人で請求した場合、既に離婚しているときには請求した者とその相手方に交付され、離婚前のときには請求した者にのみ交付されます。

(3)当事者間の話合い
 年金分割の請求をするためには、当事者間での ①年金分割を行うこと、及び ②そのときの按分割合について合意することが必要です。

(4)合意したときの手続き
 合意した内容を次のいずれかの方法で証明します。
 ①当事者双方又はその代理人が、年金分割請求時に合意した内容等を記載した書類を年金事務所の窓口に直接持参すること
 ②合意内容等を明らかにした公正証書の謄本若しくは抄録謄本又は公証人の認証を受けた私署証書を添付すること

(4)-2 合意できないときの手続き
 当事者の一方が家庭裁判所に申し立て、次の裁判手続きを利用して按分割合を定めることができます。
 ①審判手続
 ②調停手続
 ③離婚訴訟における附帯処分の手続

(5)年金分割の請求
 離婚後、当事者双方又はその一方が年金事務所に対して「標準報酬改定請求書」に按分割合等を明らかにできる書類を添付して年金分割の請求を行います。

(6)標準報酬改定通知書
 日本年金機構は、按分割合に基づき当事者それぞれの厚生年金の標準報酬の改定を行い、改定後の標準報酬を当事者に通知します。