セクハラと労災認定基準

セクハラを受けた被害者が精神疾患を発症してしまった場合の労災認定という複合的な問題があります。厚生労働省は、そのような場合の労災認定基準を見直すようです。

昭和60年(1985年)に勤労婦人福祉法を改正して施行された「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(通称、男女雇用機会均等法)の浸透、及び、先の見えない不況で賃金の上昇が見込めないことなどが要因となって、女性の社会進出が進み、また、今後も益々促進されていくことになるのでしょう。そういう労働環境の変化に伴って、セクハラに係る問題はもはや労務管理の中でも優先順位の高い見過ごしてはならない課題になってきています。一方で、国際競争の激化などで企業が余裕をなくしていることによる職場環境の悪化がうつ病など「職場における心の健康問題」を惹き起こすようになってきています。

厚生労働省は精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会を設置しています。同専門検討会は第5回目の「セクシャルハラスメント事案に係る分科会」を23日に開催しました。分科会は公開で行われ、まさに「セクハラ」と「職場における心の健康問題」とを今日的な2大課題と認識した上での基準の見直し案を提示しております。

厚生労働省の分科会が発表した見直し案は、セクハラによる精神疾患を労災認定に結びつけやすくするよう、認定基準を見直すというものです。これまで同省は職場での「心理的負荷」について、セクハラに関してはストレス強度(1~3の3段階)を一律「2」(中程度)と評価しており、特別な事情がない限り労災と認めていなかったようです。今回発表された方針では、年内にも基準を見直し、継続的な身体接触など悪質事例は最も強い「3」とするよう改められます。

現在、精神疾患の労災認定は、仕事上のストレスの強さを評価したうえで個々の事情も勘案して判断しています。ストレス強度は、退職を強要されたとき「3」、左遷されたとき「2」、経営に影響する重大ミスを犯したときは「3」などです。労災認定は、「3」でないと認定されにくいとされています。

今回の見直しでのストレス強度を「3」とされるのは次のような場合です。

1.強姦や本人の意思を抑圧してのわいせつ行為
2.胸や腰などへの身体接触を含むセクハラが継続して行われた

3.身体接触を含むセクハラで、継続していないが会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった。または会社へ相談後、職場の人間関係が悪化した

4.性的な発言のみだが、人格を否定するような内容を含み、かつ継続してなされた
5.性的な発言が継続してなされ、かつ会社がセクハラを把握しても対応がなく、改善されなかった

いずれも、これは誰が見てもひどいという場合か 継続性があり、従って、会社も気付いて動くべきだったのに適切に対処しなかった場合ということでまとめられます。

公務員と労働法

労働基準法及び労働契約法の適用除外として公務員が「同居の親族」と並んで挙げられることがありますが、公務員と言っても国家公務員、地方公務員などいろいろありますので、少し踏み込んでの整理を試みたいと思います。


1.労働基準法

(1)一般職の国家公務員

労働基準法116条2項は、① 同居の親族のみを使用する事業、及び② 家事使用人については、労働基準法が適用されないとしています。一方で、112条は労働基準法の国、都道府県、市町村などへの適用を謳っています。

しかし、公務員に対する労基法の適用はかなり複雑な仕組みになっています。

まず、一般職の国家公務員については、労基法の適用は原則なしと考えます。その根拠は、国家公務員法附則16条で一般職の国家公務員に対する労基法の適用除外が規定されているからです。労働基準監督機関の職権の行使も当然できないと考えます。一般職の国家公務員とは、特別職に属する職以外の全ての国家公務員であり、特別職は法律上明文で列挙されています。

ところが、ここに国の機関に使用される労働者ですが、労基法の適用除外にならない人たちがいます。旧三公社五現業などですが、これらが今現在どのようになっているかを整理します。三公社五現業とは、公共企業体労働関係法、公共企業体等労働関係法、国営企業労働関係法、国営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律又は特定独立行政法人等の労働関係に関する法律の適用を受けていた、又は現在も受けている公共企業体及び国の経営する企業の総称です。

日本専売公社、日本国有鉄道、日本電信電話公社の三公社については、いずれも解散の上、日本たばこ産業、JR、NTTに移行されて民営化されており、ここでの議論の余地はありません。

郵政事業、国有林野事業、日銀券及び郵便はがき等の印刷事業、造幣事業、及びアルコール専売の五現業については、郵政事業が日本郵政公社に移管後、郵政民営化によって民営化が図られ、公社は解散しています。印刷事業、造幣事業、及びアルコール専売事業は、それぞれ国立印刷局、造幣局、新エネルギー・産業技術総合開発機構として独立行政法人化されています。

この内の現業として残った国有林野事業及び特定独立行政法人である国立印刷局及び造幣局については、役職員に国家公務員の身分が残されています。この他に特定独立行政法人(別名国家公務員型独立行政法人)とされるのは、次の独立行政法人です(2010年4月現在)。

・国立公文書館 (所管内閣府)
・統計センター (所管総務省)
・国立病院機構 (所管厚労省)
・農林水産消費安全技術センター (所管農水省)
・製品評価技術基盤機構 (所管経産省)
・駐留軍等労働者労務管理機構 (所管防衛省)

これらの国営企業及び特定独立行政法人には、国家公務員の身分が残されていますが、労基法は適用されます。その根拠は、「国営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律」37条1項で国家公務員法附則16条を適用しないことになっているからです。

これ以外の独立行政法人では、役職員はそもそも国家公務員には当たりません。国家公務員がこれらの独立行政法人に出向する場合には、原則として退職の扱いになります。

(2)特別職の国家公務員

特別職の国家公務員とは、国家公務員法で列挙されている公務員です。すなわち、内閣総理大臣、国務大臣、副大臣及び大臣政務官、大使及び公使、裁判官及び裁判所職員、国会職員、防衛省職員、並びに特定独立行政法人の役員など国家公務員法2条3項に掲げられている公務員です。裁判所職員、国会職員及び防衛省の職員について労基法は適用除外です。それ以外の特別職の国家公務員については、労基法上の労働者である限り全面適用になります。

(3)地方公務員

一般職の地方公務員には、労基法は原則として適用され、その一部が適用除外とされます。適用されない規定とは、賃金の支払い、変形労働時間制、年次有給休暇の計画的付与、労災補償及び就業規則などです。また、地方公営企業の職員には労基法75条から88条の労災補償の規定を除き労基法が全面的に適用されます。

特別職の地方公務員については、労基法上の労働者である限り全面適用になります。


2.労働契約法

労働契約法は、労働基準法とは異なり、私人間のことを定めた私的自治の世界の法律であるせいか、いたって単純です。すなわち、第5章雑則 19条で、「国家公務員及び地方公務員については、適用しない。」と明確に規定されています。

平成22年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況

厚生労働省は14日、平成22年度の「脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況」を取りまとめ、公表しました。これによれば、精神障害などの労災請求件数は2年連続で過去最高に達した模様です。

以下、取りまとめの要点を転載します。


1.「過労死」など、脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況

(1)労災補償の「請求件数」は802件で、前年度比35件の増。4年ぶりに増加に転じた。
(2)労災補償の「支給決定件数」は285件(同8件の減)で、3年連続の減少。
(3)業種別(大分類)では、請求件数、支給決定件数ともに、「運輸業、郵便業」(182件、78件)、「卸売・小売業」(132件、53件)、「製造業」(118件、35件)の順に多い。中分類では、請求件数、支給決定件数ともに「運輸業、郵便業」の「道路貨物運送業」(108件、57件)が最多。
(4)職種別(大分類)では、請求件数は「輸送・機械運転従事者」(156件)、「事務従事者」(110件)、「サービス職業従事者」(85件)の順で多く、支給決定件数は「輸送・機械運転従事者」(69件)、「事務従事者」(44件)、「専門的・技術的職業従事者」(40件)の順に多い。中分類では、請求件数、支給決定件数ともに「輸送・機械運転従事者」の「自動車運転従事者」(139件、65件)が最多。
(5)年齢別では、請求件数、支給決定件数ともに「50~59歳」(279件、104件)、「40~49歳」(218件、96件)、「60歳以上」(203件、42件)の順に多い。

2.精神障害などに関する事案の労災補償状況

(1)労災補償の「請求件数」は1181件(同45件の増)となり、2年連続で過去最高。
(2)労災補償の「支給決定件数」は308件(同74件の増)で、過去最高。
(3)業種別(大分類)では、請求件数、支給決定件数ともに、「製造業」(207件、50件)、「卸売・小売業」(198件、46件)、「医療、福祉」(170件、41件)の順に多い。中分類では、請求件数は「社会保険・社会福祉・介護事業」(85件)、支給決定件数は「社会保険・社会福祉・介護事業」および「医療業」(各20件)が最多。
(4) 職種別(大分類)では、請求件数は「事務従事者」(329件)、「専門的・技術的職業従事者」(273件)、「販売従事者」(148件)の順で多く、支給決定件数は「専門的・技術的職業従事者」(73件)、「事務従事者」(61件)、「販売従事者」(44件)の順に多い。中分類では、請求件数、支給決定件数ともに「一般事務従事者」(211件、36件)が最多。
(5) 年齢別では、請求件数、支給決定件数ともに「30~89歳」(390件、88件)、「40~49歳」(326件、76件)、「20~29歳」(225件、74件)の順に多い。

平成22年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況

保険者算定について

「算定」の季節です。算定とは算定基礎届のことですが、社会保険の被保険者が実際に受け取る報酬と現行の標準報酬月額がかけ離れないように、毎年1回、原則として7月1日現在の被保険者全員について、4月、5月、6月に受け取った報酬の届出を7月1日から10日の間に行い、その年の9月以降の標準報酬月額の決定を行うことを指しています。この決定を定時決定と言っていますが、定時決定に至る一連の作業を通常「算定」と呼びならわしています。

ところで、通常の方法では報酬月額の「算定が困難なとき」及び算定結果が「著しく不当になる場合」には、保険者(協会けんぽ加入事務所の場合、年金事務所)が特別な算定方法(修正平均)によって報酬月額を算定することになっています。本年からは、従来の場合に加えて、「業種や職種の特性から、4月~6月までの報酬額がその他の時期と比較して著しく変動するような場合」も事業所からの申出を条件に保険者算定が適用できるようようになりました。


1.算定が困難なとき

(1)4月、5月、6月の各月とも支払基礎日数が17日未満であるとき
(2)病気欠勤等で4月、5月、6月の3箇月間報酬が零のとき
(3)育児休業等又は介護休業で4月、5月、6月の3箇月間報酬が零のとき

 ⇒これらの場合には、従前の標準報酬月額で決定します。


2.著しく不当になる場合

(1)4月、5月、6月のいずれかの月に、3月分以前の給与の遅配分を受けたとき
 ⇒3月分以前の遅配分を控除して計算します。

(2)4月、5月、6月のいずれかの月の給与が、7月以降に支払われるとき
 ⇒7月以降に支払われる遅配分がある月を除いて計算します。

(3)4月、5月、6月のいずれかの月に、3月分以前にさかのぼった昇給分の差額を受けたとき
 ⇒3月分以前の昇給差額を除いて計算します。

(4)4月、5月、6月のいずれかの月に、定額の休職給を受けたとき
 ⇒定額の休職給を受けた月を除いて計算します。
 ⇒3箇月とも定額の休職給を受けた場合、従前の標準報酬月額で決定します。

(5)4月、5月、6月のいずれかの月に、ストライキによる賃金カットがあったとき
 ⇒賃金カットがあった月を除いて計算します。

(6)4月~6月の報酬額をもとに計算した標準報酬月額が、過去1年間(前年7月~当年6月)の月平均報酬額によって計算した標準報酬月額と2等級以上の差があり、当該差が業務の性質上、例年発生することが見込まれるとき
 申立てにより過去1年間の月平均報酬額によって計算します。


3.例年4月~6月に報酬の変動が予想される業種

2.(6)については事業主からの申立てを要件としています。つまり、この申立ては強制ではないため、標準報酬月額等級区分に2等級以上の差が生じている場合であっても、申立てがない場合には、原則に戻って通常の報酬月額の算定方法によって標準報酬月額を決定することになります。

(1)4月~6月が繁忙期になる業種
 ①4月~6月に収穫期を迎える農産物の加工の業種
 ②夏に売り上げが上昇する商品の製造を4月~6月にかけて行う業種
 ③取り扱う魚種の漁期により加工が4月~6月に上昇する水産加工業等の業種
 ④ビルメインテナンス等が年度末に集中する清掃・設備点検の業種
 ⑤田植え時期の準備等で4月~6月残業が増加する農業法人等
 ⑥4月の転勤、入社、入学に合わせて業務が増加する引越し、不動産、学生服販売等の業種

(2)4月~6月が繁忙期になる部署
 業種を問わず、人事異動や決算のため4月以降の時期が繁忙期になり、残業代が増加する総務及び経理等の部署

(3)4月~6月の報酬が年間平均よりも低くなる業種
 ①冬季に限定される杜氏、寒天製作業、測量関係等の業種
 ②夏・冬季に繁忙期を迎えるホテル等の業種
20110614_保険者算定業種申立書

20110614_保険者算定業種同意書

年金額の改定とマクロ経済スライドなど

 今月第1回目の支給が実施される平成23年度の年金額は、昨年度に比べて0.4%引き下げられることになっています。この結果、老齢基礎年金の満額支給金額が792100円から788900円に3200円引き下げられることなど、既に報道等でご案内の通りです。公的年金の支給額引下げは、平成18年度以来5年ぶりになりますが、これは総務省が発表している平成22年の全国消費者物価指数が前年比0.7%の下落となった事実を踏まえています。

 それでは、年金額の改定が一体どのように行われるのか、その仕組みについて解説していきたいと思います。


1.マクロ経済スライド

 いきなり訳のわからない年金用語が出てきます。しかし、平成16年の法改正により、年金額を改定するときの大原則は、このマクロ経済スライドによるということになっています。それでは、マクロ経済スライドとは何かということです。従来からあった年金額改定の仕組みは、賃金及び物価増減率のみを考慮していたのに対し、マクロ経済スライドではこれらに加えて、労働力人口(被保険者数)の減少及び平均余命の伸びをも考慮に入れて、平成35年度末まで年金額の上昇を抑制する仕組みです。ここでは、賃金及び物価の上昇率(まともに経済成長している国では普通毎年上昇するものなので)を労働力人口の減少及び平均余命の伸びで値切った末に出てきた改定率を改定率Aとします。そこで、老齢基礎年金を例に話を進めると、年金額は次の式で決定するとしています。

780900円×改定率A

 平成35年度末までは、なぜこうなるかといいますと、まず政府は、少なくとも5年ごとに、年金「財政の現況及び見通し」を作成し、遅滞なく公表しなければならないと法律で規定されています。その「財政の現況及び見通し」の中で明らかにしなければならないことは、(1)保険料及び国庫負担の額並びに国民年金法による給付に要する費用の額その他の国民年金事業の財政に係る収支の現況、(2)当該「財政の現況及び見通し」が作成される年以降おおむね100年間とされている財政均衡期間における前記(1)の収支の見通し、です。

 そして、「財政の現況及び見通し」を作成するに当たり、国民年金事業の財政が、財政均衡期間の終了時に給付の支給に支障が生じないようにするために必要な積立金を保有しつつ当該財政均衡期間にわたってその均衡を保つことができないと見込まれる場合には、年金たる給付の額を調整するものとするとしています。その給付額を調整するための期間を「調整期間」といい、今回その開始年度は平成17年度とされているのです。

 ここでいう積立金とは、国民年金特別会計の国民年金勘定に係る積立金のことを指します。ここまで述べたのと同様の規定は、厚生年金保険法にも定められていて、厚生年金の場合、積立金とは厚生保険特別会計の年金勘定に係る積立金及び責任準備金を指しています。


2.物価スライド特例措置

 ところが、前述のマクロ経済スライドは、平成17年から既に5年を経過した今現在も実施されない保留状態が続いています。訳のわからぬマクロ経済スライドなどという専門用語をせっかく勉強したのに虚しくなるところですが、この理由は、平成12年から14年の景気後退期に生じた-1.7%の物価下落がその後の物価上昇によって相殺されるまで、マクロ経済スライドを含む前述の原則的な年金額の改定方法の実施を延期することとしてしまったからです。平成12年といえば2000年ですが、小泉政権の誕生が2001年の4月であり、同政権が景気後退が窮まった閉塞感の中から生まれたことを思い出すと、マクロ経済スライドの実施を延期した当時の経緯を想像することができます。

 そして、現在行われている物価スライド特例措置による年金額改定の方法は、次の式となります。

804200円×改定率B

 804200円とは平成12年改正後の年金額であり、仮に改定率Bとおいた改定率は、物価が上昇しても据え置かれた-1.7%を解消するまで物価上昇率を反映させず、物価が下落したときにだけ改定率を引き下げるというものです。実際に物価が下落した場合の改定率変更の方法ですが、直近の年金額改定時の物価水準を下回った分を引き下げるということになっています。直近の改定は5年前の平成18年度ですので、平成17年の物価水準を見ていきます。そして平成17年の物価水準からの物価増減率は、18年+0.3%、19年±0、20年+1.4%、21年-1.4%、そして22年-0.7%でしたので、23年度分になって初めて平成17年の物価水準を0.4%下回ることになり、その分の年金額が引き下げられることになったのです。