労働時間について基準法の適用除外

1.仮眠時間の対策

 仮眠時間のような労働密度が希薄な時間でも労働時間とされ、同額の賃金を支払わなければならないというのが、大星ビル管理事件最高裁判決の結論でした。強行法規たる労働基準法では、労働時間と休憩時間との中間は存在しません。そのため、仮眠時間等の不活動時間であっても、労働からの解放が保障されていなければ完全な労働時間として扱われることを前提に対応しなければなりません。

 大星ビル管理事件の場合の対策として、(1)交代の回数を増やして仮眠時間をできる限り作らないようにする、(2)宿直の従業員が複数いる場合には、仮眠を交代で取るようにして仮眠時間は使用者の指揮命令下から完全に解放する、(3)当該業務につき、監視・断続労働(労働基準法41条3号)の許可を得ることによって、時間外労働の割増賃金の適用を除外する、などが考えられます。現実には、どの方法も実行に移すには難しい問題を抱えている感じはしますが、ここでは(3)基準法の適用除外について見てみたいと思います。


2.労働時間規定の適用除外

 労働基準法41条は、同法第4章(労働時間等)、第6章(年少者)及び第6章の2(女性)で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次のいずれかに該当する労働者には適用しないとしています。

(1)農業、水産業等に従事する者
(2)事業の種類にかかわらず、監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
(3)監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁(所轄労働基準監督署長)の許可を受けた者

 この場合には、法定労働時間及び休日労働という概念がそもそも入ってこないので、時間外勤務手当及び休日勤務手当も存在しないのです。しかし、深夜業及び年次有給休暇の規定は適用除外とされないので注意が必要です。

 監視に従事する者とは、原則として、一定の部署で監視することが本来の業務であって、常態として、心身の緊張度の少ない労働に従事する者です。守衛、門番などがこれに当たります。また、断続的労働に従事する者とは、業務がとぎれとぎれにあり、労働時間中に手待時間が多く、実作業時間が少ない業務に従事する者です。具体的には、寮や寄宿舎の管理人、役員専属自動車運転手などが該当するものと思われます。

 大星ビル管理事件の場合、Xらが(3)の断続的労働に従事する者に該当するかどうかです。この点については、必要な手続きを行った上で所轄労働基準監督署長の許可を受けなければなりませんので、行政の判断ということになります。

 隔日勤務ビル警備業務についての許可の要件として、次のようになっているのが参考になります。
(1)1勤務の拘束時間が24時間以内
(2)夜間に継続4時間以上の睡眠時間
(3)1勤務の巡回回数が10以下
(4)勤務と勤務の間に20時間以上の休息時間

仮眠時間と時間外労働_大星ビル管理事件

 今年の8月は、酷暑と円高の夏になりました。夏は夏らしく暑くなるのは産業全般にとって追い風になるのでしょうが、この真綿で締め上げるような円高は、輸出産業を直撃し、日本経済にとっても相当な打撃になりそうです。また、このような負の見通しからか、日経平均が遂に9000円台を終値で割ってしまい、株式低迷という事実が相乗効果をもたらして経済低迷の一つの要因になってきます。このところ円高から派生している日本経済の動向は、一時的な景気の後退だけでなく、構造的な産業の空洞化につながることが怖いところです。産業が空洞化して雇用がなくなる問題はさておき、本年4月から、施行されている改正労働基準法の要諦は、法定の労働時間(1週間40時間、1日8時間)を超える時間外労働時間について、月当たり45時間以内、45時間超60時間以内、及び60時間超の三段階に細分化し、60時間超については否応なく5割以上の割増率で割増賃金の支払を課していることです。

 時間外労働には今までにも増して厳密な管理が要求されるようになったわけですが、それでは、労働時間とはそもそもどのように考えたらよいのかという点について争われた大星(たいせい)ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日判決)について見てみたいと思います。


1.事案の概要

 Y社は、不動産の管理受託及び管理受託に係る建築物の警備、設備運転保全等の業務を行う株式会社です。Y社の従業員Xらは、Y社が管理した各ビルに配置され、(1)ビル設備であるボイラー、ターボ冷凍機の運転操作、監視及び整備、(2)電気、空調、消防、衛生等のビル内各設備の点検、整備、(3)ビル内巡回監視、(4)ビルテナントの苦情処理、(5)ビル工事の立会、(6)記録、報告書の作成等の業務に従事していました。

 Xらは、毎月数回24時間勤務(註)に従事し、24時間勤務中、休憩が合計1時間乃至2時間、仮眠時間が連続して7時間乃至9時間与えられていました。Xらは、仮眠時間中、各ビルの仮眠室において、警報が鳴るなどの場合、直ちに所定の作業を行うこととされていましたが、このような事態が生じない限り、睡眠をとってもよいことになっていました。また、Xらは、配属先のビルからの外出を原則として禁止され、仮眠室における在室、電話の授受、警報に対応して必要な措置を取ること等を義務付けられ、飲酒は禁止されていました。また、仮眠時間中に警報が鳴った場合は、ビル内の監視室に移動し、警報の種類を確認し、警報の原因が存在する場所に赴き、警報の原因を除去する作業を行うなどの対応をし、また、警備員が水漏れや蛍光灯の不点灯の発見を連絡したり、工事業者が打ち合わせをするために仮眠室に電話をかけてきたときには、現場に行って対応することとされていました。

 Y社の賃金規程によれば、24時間勤務についた場合には、2300円の泊まり勤務手当を支給する旨の規定があるだけで、24時間勤務における仮眠時間は所定労働時間に参入されておらず、かつ、時間外勤務手当及び深夜就業手当の対象となる時間として取り扱いはされてきませんでした。ただし、仮眠時間中に突発的に作業が発生した場合、実作業時間に対しては、時間外勤務手当及び深夜就業手当が支給されていました。

 Xらは、泊まり勤務中の仮眠時間が労働時間に当たるとして、仮眠時間についての労働協約、就業規則所定の時間外勤務手当及び深夜勤務手当乃至労働基準法37条所定の時間外勤務手当及び深夜割増賃金の支払いをY社に求めて提訴したのが本件です。

(註)改正前就業規則による勤務区分には、日勤、早番、中番、遅番、16時間勤務、18時間勤務(始業午後3時、終業翌朝午前9時、休憩又は仮眠途中4時間)、21時間勤務(始業正午、終業翌朝午前9時、休憩又は仮眠途中7時間)及び24時間勤務(始業午前9時、終業翌朝午前9時、休憩又は仮眠途中10時間)があった。改正就業規則による勤務区分においては、従来の日勤、早番、中番、遅番に相当する部分は10の勤務区分に分けられ、16時間勤務、21時間勤務(始業正午、終業翌朝午前9時、休憩又は仮眠午後6時から午後7時まで、仮眠途中連続6時間)及び24時間勤務(始業午前9時、終業翌朝午前9時、休憩又は仮眠正午から午後1時まで、午後6時から午後7時まで、仮眠途中連続8時間)は残された。ただし、これらの勤務区分はあくまで原則であり、各勤務先のビルの実情に応じて勤務時間を変えることができるようになっている。


2.解 説

(1)判決要旨

 ①労基法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである(最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。そして、不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。

 ②そこで、本件仮眠時間についてみるに、前記事実関係によれば、Xらは、本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。したがって、Xらは、本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めてY社の指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。

 ③上記のとおり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきであるが、労基法上の労働時間であるからといって、当然に労働契約所定の賃金請求権が発生するものではなく、当該労働契約において仮眠時間に対していかなる賃金を支払うものと合意されているかによって定まるものである。もっとも、労働契約は労働者の労務提供と使用者の賃金支払に基礎を置く有償双務契約であり、労働と賃金の対価関係は労働契約の本質的部分を構成しているというべきであるから、労働契約の合理的解釈としては、労基法上の労働時間に該当すれば、通常は労働契約上の賃金支払の対象となる時間としているものと解するのが相当である。したがって、時間外労働等につき所定の賃金を支払う旨の一般的規定を有する就業規則等が定められている場合に、所定労働時間には含められていないが労基法上の労働時間に当たる一定の時間について、明確な賃金支払規定がないことの一事をもって、当該労働契約において当該時間に対する賃金支払をしないものとされていると解することは相当とはいえない。

 そこで、Y社とXらの労働契約における賃金に関する定めについてみるに、前記のとおり、賃金規定や労働協約は、仮眠時間中の実作業時間に対しては時間外勤務手当や深夜就業手当を支給するとの規定を置く一方、不活動仮眠時間に対する賃金の支給規定を置いていないばかりではなく、本件仮眠時間のような連続した仮眠時間を伴う泊り勤務に対しては、別途、泊り勤務手当を支給する旨規定している。そして、Xらの賃金が月給制であること、不活動仮眠時間における労働密度が必ずしも高いものではないことなどをも勘案すれば、Y社とXらとの労働契約においては、本件仮眠時間に対する対価として泊り勤務手当を支給し、仮眠時間中に実作業に従事した場合にはこれに加えて時間外勤務手当等を支給するが、不活動仮眠時間に対しては泊り勤務手当以外には賃金を支給しないものとされていたと解釈するのが相当である。
 
 ④上記のとおり、Xらは、本件仮眠時間中の不活動仮眠時間について、労働契約の定めに基づいて既払の泊り勤務手当以上の賃金請求をすることはできない。しかし、労基法13条は、労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分について無効とし、無効となった部分は労基法で定める基準によることとし、労基法37条は、法定時間外労働及び深夜労働に対して使用者は同条所定の割増賃金を支払うべきことを定めている。したがって、労働契約において本件仮眠時間中の不活動仮眠時間について時間外勤務手当、深夜就業手当を支払うことを定めていないとしても、本件仮眠時間が労基法上の労働時間と評価される以上、Y社は本件仮眠時間について労基法13条、37条に基づいて時間外割増賃金、深夜割増賃金を支払うべき義務がある。

 ⑤労基法37条所定の割増賃金の基礎となる賃金は、通常の労働時間又は労働日の賃金、すなわち、いわゆる通常の賃金である。この通常の賃金は、当該法定時間外労働ないし深夜労働が、深夜ではない所定労働時間中に行われた場合に支払われるべき賃金であり、Xらについてはその基準賃金を基礎として算定すべきである。この場合、Xらの基準賃金に、同条2項、労働基準法施行規則21条(平成6年労働省令第1号による改正前のもの。)により通常の賃金には算入しないこととされている家族手当、通勤手当等の除外賃金が含まれていればこれを除外すべきこととなる。前記事実関係によれば、上告人らの基準賃金には、世帯の状況に応じて支給される生計手当、会社が必要と認めた場合に支給される特別手当等が含まれているところ、これらの手当に上記除外賃金が含まれている場合にはこれを除外して通常の賃金を算定すべきである。


(2)法定労働時間と時間外労働

 労働基準法32条は、法定労働時間を1週間に40時間、1日8時間と定めています。これを超えてする労働は、時間外労働であり、割増賃金を支払わなければなりません。労働基準法37条によれば、時間外労働時間が1箇月60時間以内ならば2割5分以上の割増率で計算した割増賃金、60時間超については5割以上の割増率となります。

 また、割増賃金算定の対象となる賃金の範囲は、通常の労働時間又は労働日の賃金であり、基本給の他諸手当が含まれます。ただし、次の7種類の賃金は、割増賃金の計算の基礎に算入しないことになっています。
①家族手当 ②通勤手当 ③別居手当
④子女教育手当 ⑤住宅手当
⑥臨時に支払われた賃金(私傷病手当)
⑦1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 本事案では、Xらの賃金は月給制で、基準賃金と基準外賃金によって構成されており、基準賃金は、年齢に応じて支給される基本給、職能に応じて支給される職能給、勤続年数に応じて支給される勤続給、役職に応じて支給される役名給、資格に応じて支給される職務手当、世帯の状況に応じて支給される生計手当、Y社が必要と認めた場合に支給される特別手当等により構成され、基準外賃金は、時間外勤務手当、深夜就業手当、泊り勤務手当、休日出勤手当、当直手当で構成されていました。

 したがって、時間外手当の計算は、原則的として次のような式になると考えられます。

(基本給+職能給+勤続給+役名給+職務手当+特別手当※)÷(156※※)×1.25

※ 中身に上述の除外賃金がふくまれるのであればこれを除外する
※※就業規則等の定めによる

退職金の法的性格_三晃社事件

同業他社に就職した退職社員について、退職金規則に従って退職金を半額にしたことの有効性が争われた事件です。退職金の法的性格と同業他社への転職禁止(競業避止義務)が論点になってきます。

1.事案の概要

X社は、広告代理業を営む株式会社です。Yは、昭和38年4月1日にX社に入社し、昭和48年7月20日に同社を退職しました。同日、Yは退職金規則による退職金を請求、同年8月2日、X社は自己都合退職乗率に基づき計算された退職金648000円をYに対して支払いました。

X社の退職金規則には、同業他社へ就職したときは、自己都合退職の2分の1の乗率に基づいて退職金が計算されるという趣旨の規定があり、Yは入社の際、競業避止義務を認める誓約書を提出し、退職金受領時にも、その後において同業他社に就職した場合、退職金の半額をX社に返還することを誓約していました。

しかるにYは、X社の事前承諾を得ることなしに、同年8月6日、同業他社に就職しました。そこでX社は、Yに対し、退職金の2分の1に相当する324000円を返還することを求めて訴訟を提起しました。


2.解 説

(1)判決要旨

X社の訴えは労働基準法16条に違反して無効とした第1審に対して、控訴審は労働基準法16条及び24条に違反しない、減額の程度も公序良俗に反するものとは言えないとしてX社の主張を認めました。これに対してYが上告した最高裁判決(昭和52年8月9日)では、上告は棄却され、次のように判示されました。

X社が営業担当社員に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することをもって直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められず、したがって、X社がその退職金規則において、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。

すなわち、この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきであるから、右の定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても、所論の同法3条、16条、24条及び民法90条等の規定にはなんら違反するものではない。

(2)退職金の法的性格

判決でも明確に述べられていますが、①賃金の後払い、②功労報償の二面性があるとされています。そして、どちらの性格を強調するかによって、退職金の発生は、①であるならば在職時の各給料支払い時に、②ならば退職という期限が到来した時に発生しているという考え方につながっていきます。また、退職金を減額する規定を設けた場合、①であるならば、既に発生している賃金を没収するという結果になりますから、労働基準法16条及び24条1項に違反するという結論に結びつきやすく、②の立場からすると、退職金は労使間の合意に基づき退職時に発生するものなので、退職金減額規定の合理性の問題になり、労働基準法16条及び24条1項に違反するという結論に直ちに結びつくことはなくなります。

(3)退職金減額規定の合理性

この事案は、同業他社への転職禁止(競業避止義務)とも密接に関連しています。年功序列が崩壊し、転職が頻繁に行われるようになった昨今、競業避止義務はより判断の難しい問題になっていると思われます。本事案判決でも明確に述べられている通り、退職金には功労報償的性格があることは認められていますので、一定の条件を課して退職金を減額する規定は、合理性が認められる限りにおいて有効です。しかし、同業避止義務に違反した労働者に退職金を全く支給しないとする規定は、当該同業他社への転職について「顕著な背信性」がある限り適用されるとした高裁判決が出ています。同業避止義務違反には「退職金不支給」とするような規定を設ける場合、注意が必要です。

合理性判断の基準として考慮すべき事項
 ①転職が禁止される地域・期間
 ②転職が禁止される職種
 ③転職を禁止する必要性
 ④対象となる退職の事由
 ⑤賃金の減額幅
 ⑥減額率が退職者の背信性を考慮しているか

去年の新規就農者 11%増加

我が国は、小泉政権下の数年の例外を除き、経済のデフレ傾向がずっと続いてきました。リーマンショック以降の世界的な景気後退と円高により、デフレはますます深刻化しています。それは、結局何をもたらすのか。輸出企業による生産拠点の海外移転であり、その結果としての構造的な雇用機会及び税収の減少です。円高は、後述の食糧及びエネルギーを海外から輸入するための戦略の一環というならばとりあえず納得しますが、何の戦略もない円高の放置プレーは目に余るものになってきた感があります。

しかし、雇用機会の減少という厳しい現実は、農業就業者数の増加という副次的な結果をももたらしたようです。小生は、今若い人が農業(=食糧の生産)分野の仕事に就くことは正解だと思っています。我が国の食料自給率は、約40%で先進国中最低です。中国と印度が新興国として立ち上がった昨今、近い将来食糧とエネルギーが不足する事態を想定しておくことは常識の問題です。我が国は、長い間経常収支が恒常的に黒字だったので、食糧は金さえ出せば無尽蔵に手に入ると考えがちですが、つい最近の露西亜の小麦輸出禁止に見られるように、食糧輸出国はいざとなったら国内市場重視です。どこの国も自国民を飢えさせることは最悪ですから、当たり前のことです。

小生などは、学校給食ですっかりパン食に慣らされた世代ですが、せめて学校給食は100%米食にすることで米の消費量を高め、小麦を止められても米で100%自給できるくらいにしておかなければならないと思います(米だけで100%というのは極論ですが)。食糧自給率を高めることにつながりそうな農業就業者の増加は、間違いなく国益にかなう良いことです。また、いざという時に貯蓄がいくらあっても食糧に交換できなければそれは死に金ですから、食糧生産に携わる職業は個人にとってもこれから非常に有望です。


===NHK HPより引用===

去年の新規就農者 11%増加
8月18日

厳しい雇用情勢が続くなか、実家のあとを継いで農業を始める人が多くなっていることから、去年新しく農業を始めた人の数が前の年より11%余り増えたことが、農林水産省の調査でわかりました。

農林水産省によりますと、去年1年間に新しく農業を始めた人の数は6万6820人と、前の年より11.4%増え、今の方法で調査を始めた平成18年以来、初めて前の年を上回りました。内訳をみますと、実家のあとを継いだ人は5万7400人と、前の年に比べて15.6%上回りました。これに対して、農業法人などに就職した人が7570人と前の年を9.9%下回ったほか、土地や資金をみずから調達して農業を始めた人も1850人と5.6%減りました。農林水産省では、厳しい雇用情勢が続くなか、リストラされた中高年や内定を得られない若者などが、実家の農業のあとを継ぐケースが増えたのではないかと分析しています。国内で農業を営む人は、高齢化と後継者不足によって減り続け、平成20年は490万人と、この20年で半分程度まで減っています。農林水産省では「新たに農業を始めた人たちへの技術面や経営面での支援を強化し、農業の担い手として育成したい」としています。

===NHK HPより引用終わり===




合意による退職金との相殺_日新製鋼事件

 労働基準法24条は、賃金全額払いの原則を規定した条文です。本事案は、使用者が労働者の同意の下、労働者が会社から借りていた借入金を退職金で相殺したことの有効性が問われた判例です。24条でいう賃金には、その名称の如何を問はず、労働の対償として、使用者が労働者に支払う全てのものが含まれます。退職金は、労働協約、就業規則、又は労働契約などで予め支給条件が明確である場合、賃金であると解されています。また、退職金の法的性格の中には、賃金の後払いという側面があるとされており、本事案も24条との関係で議論されることになりました。


1.事案の概要

 Aは、Y社に在職中、住宅資金をY社及びB銀行から借り入れました。右借入金は、いずれも借り入れの際に抵当権は設定されておらず、低利かつ長期の分割弁済の約定の下に借り入れられたものであり、Y社借入金及びB借入金について、利子の一部をY社が負担する等の措置が取られていました。

 Y社及びB銀行への返済は、住宅財形融資規程等により、毎月の給与及び賞与から控除し、退職等のため従業員の資格を喪失した場合には、退職金その他より残債務を一括償還する旨が約されており、Aは同約定を承認していました。

 その後、Yは借財が膨らみ、昭和58年9月頃には、破産申立てをするほかない状況に至り、Y社を退職することを決意しました。Y社に対しては、借入金の残債務を退職金等で返済する手続きを取ってくれるように依頼し、Y社はこれを了承しました。Y社は、昭和58年9月14日、同月15日を退職希望日とするAからの退職願を受理するとともに、同人が各借入金についての各約定の趣旨を確認し、これに従い自己の退職金等を以てY社が各借入金を一括返済するための手続きを行うことに同意する趣旨で作成した委任状の提出を受けました。

 Y社は、昭和58年9月20日、退職金等からY社借入金の一括返済額を控除するとともに、B借入金の一括返済額を控除し、各借入金の清算処理を行いました。

 Aは、昭和58年10月19日裁判所から破産宣告を受け、管財人Xが選任されました。管財人Xは、上記相殺が労働基準法24条1項の賃金全額支払いの原則に反して無効であり、破産法上の否認権行使の対象になるとしてY社に対して退職金の支払いを請求して提訴したのが本件です。


2.解 説

(1)判決要旨(最高裁平成2年11月26日判決)

 賃金全額払いの原則の趣旨はとするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって、労働者の賃金債権を相殺することを禁止する趣旨をも包含するが、労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者がその自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である。もっとも、右全額払いの原則の趣旨にかんがみると、右同意が労働の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならないことはいうまでもないところである。

 本件相殺におけるAの同意は、同人の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在していたものというべきである。

(2)賃金全額払いの原則

 労働基準法24条1項は面倒な条文なので、穴埋問題的に記述してみました。

労働基準法24条
1項 賃金は、(  )で、(  )労働者に、その(  )を支払わなければならない。ただし、(  )若しくは(  )に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、(  )以外のもので支払い、また、(  )に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

「通貨以外のもの」と「一部控除」の例外要件が違うので混乱しますが、相殺も含む一部控除の例外は、法令による場合、具体例は所得税、住民税、又は社会保険料などです。もう一つは、労使協定により定めた事項です。

(3)使用者による相殺の禁止

①使用者による相殺
 賃金全額払いの原則の下、損害賠償請求権、不法行為債権などいついて使用者側からの一方的な意思表示による相殺は禁止されています。

②労働者による相殺
 労働者側からの一方的な意思表示による賃金債権との相殺及び賃金債権の放棄は、賃金全額払いの原則に違反しないとされています。

③調整的相殺
 使用者からの一方的な意思表示による相殺の例外として、過払賃金の清算のための「調整的相殺」は、実質的に賃金は全額支払われているので、時期が合理的であり、予め労働者に予告した場合や相殺する額が多額にならない場合には許容されています。

④合意相殺
 労働基準法の強行法規性を強調する立場からは、労働者の同意があったとしても24条に違反するので無効であるという解釈が成り立ちます。しかし、本事案における判決要旨でも述べられているように、労働者がその自由な意思に基づいて同意した場合においては、同意が労働者がその自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときという条件付きで相殺の有効性を認めています。

(4)相殺の制限

 最後に、前述の②、③及び④のような相殺が認められる場合であっても、他の法律で相殺が制限される場合があります。賃金及び退職金の場合、四分の三相当額(月給の場合にはこの額と33万円のいずれか低い方の額)については相殺できません。

民事執行法
第152条 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
 一.債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
 二.給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の4分の3に相当する部分は、差し押さえてはならない。
3 債権者が前条第1項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前2項の規定の適用については、前2項中「4分の3」とあるのは、「2分の1」とする。