遺族基礎年金及び遺族厚生年金の基礎

 遺族年金の知識は、時に頭が混乱することもあるので、遺族基礎年金及び遺族厚生年金の基礎をまとめてみました。


1.遺族基礎年金

(1)支給要件
 国民年金の被保険者が死亡した場合、死亡した人の要件、遺族の要件、保険料納付要件の3つの要件を適宜満たしていることが必要です。

 ①死亡した人の要件
 死亡した人が、次のいずれかに該当する必要があります。さらに、A及びBについては、保険料の納付要件を満たすことが必要です。
 A.国民年金の被保険者 
 B.国民年金の被保険者であった者で日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の者
 C.老齢基礎年金の受給権者
 D.老齢基礎年金の受給資格期間を満たしている者(受給資格者)

 ②遺族の要件
 遺族とは、死亡した者によって生計を維持されていた
 A.子のある妻、及び、B.子 です。
 「生計維持」とは、死亡当時その人と生計を同一にしていた人であって、年収850万円以上の収入を将来にわたって有すると認められる人以外の人です。
 ここでいう「子」とは、18歳到達年度末日までの子又は障害等級1級又は2級の障害の状態にある20歳未満の子で、現に婚姻していない子を言います。

 ③保険料納付要件
 ①死亡した人の要件でA又はBに該当する場合、死亡日の属する月の前々月までに被保険者期間があるときは、死亡日前日に、次の保険料納付要件を満たしていることが必要です。
 A.保険料納付期間(20歳未満及び60歳以後の納付済み期間を含む)と保険料免除期間とを合算した期間がその被保険者期間の三分の二以上あること。すなわち、保険料滞納期間が全体の三分の一を超えていないこと。
 B.死亡日が平成28年4月1日前の場合は、Aの要件を満たしていなくても、死亡日の属する月の前々月までの1年間のうち保険料未納の被保険者期間がないこと。
 註)「死亡日の属する月の前々月までに被保険者期間があるとき」とは、「死亡日前に保険料を納付しなければならない期間があるとき」という意味です。国民年金(厚生年金も)の保険料の納付期限は、翌月末日とされ、前月の保険料はまだ保険料納付期限に到達していないのです。

(2)遺族基礎年金の金額

 ①子のある妻
 子のある妻に支給される遺族基礎年金の額は、現在792100円でこの数により加算される仕組みです。加算される額は、子が1人の場合227900円、2人の場合455800円、3人の場合531700円です。

 ②子に支給される場合
 子に支給される遺族基礎年金の額は、子が1人の場合792100円、子が2人の場合792100円に227900円が加算され、子が3人の場合792100円に227900円及び75900円が加算されて支給されます。

(3)遺族基礎年金の支給停止

 ①労働基準法上の遺族補償が行われるべきものである時には、死亡日から6年間支給を停止する。
 ②子に支給される遺族基礎年金は、妻が遺族基礎年金の受給権を有するとき、又は、その子が父若しくは母と生計を同じくしているときは、その間支給を停止される。
 ③妻に支給される遺族基礎年金は、妻の所在が1年以上不明な場合には、受給権を有する子の申請によって、所在不明になった時に遡って支給が停止される。
 ④子に支給される遺族基礎年金は、受給権者である子が2人以上いる場合で、その内1人以上の子の所在が1年以上不明な場合には、その子に対する遺族基礎年金は、他の子の申請によって、所在不明になった時に遡って支給が停止される。

(4)遺族基礎年金の失権

 ①妻及び子共通
 A.死亡
 B.婚姻
 C.養子になった時(直系血族又は直系姻族の養子になった場合を除く)

 ②妻
 子に該当する者がいなくなったとき
 
 ③子
 A.離縁によって死亡した者の子でなくなったとき
 B.18歳に到達した日以後最初の3月31日が終了したとき(障害の状態である場合を除く)
 C.障害等級1級又は2級の障害の状態にある子について、その状態が止んだ時(18歳に到達した日以後最初の3月31日までの間にある場合を除く)
 D.20歳に到達したとき


2.遺族厚生年金

(1)支給要件
 厚生年金保険の被保険者又は被保険者であった者が死亡した場合、死亡した人の要件、遺族の要件、保険料納付要件の3つの要件を適宜満たしていることが必要です。

 ①死亡した人の要件
 死亡した人が、次のいずれかに該当する必要があります。さらに、A及びBについては、保険料の納付要件を満たすことが必要です。
 A.厚生年金保険の被保険者(短期) 
 B.厚生年金保険の被保険者資格喪失後、被保険者期間中に初診日がある傷病によって初診日から5年以内に死亡したとき(短期)
 C.障害等級1級又は2級の障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が死亡したとき(短期)
 D.老齢厚生年金の受給権者又は受給資格期間を満たしている者が死亡したとき(長期)

 ②遺族の要件
 遺族とは、死亡した者によって生計を維持されていた
 A.配偶者、及び、 
 B.父母
 C.孫
 D.祖父母 です。

 「生計維持」要件は基礎年金と同様です。また、「子」及び「孫」とは、18歳到達年度末日までの子又は障害等級1級又は2級の障害の状態にある20歳未満の子で、現に婚姻していない子及び孫を言います。妻以外の夫、父母、祖父母については、55歳以上の年齢制限があり、また、支給開始年齢は60歳からとされています。

 死亡日が、平成19(2007)年4月以降の場合、夫の死亡時30歳未満の子のない妻に支給される遺族厚生年金は、5年間の有期給付(30歳前に遺族基礎年金の受給権がなくなった場合はその時点から5年間)とされることになりました。
 
 ③保険料納付要件
 ①死亡した人の要件でA又はBに該当する場合、遺族基礎年金と同様の国民年金保険料納付要件を満たす必要があります。

(2)遺族厚生年金の金額

 遺族厚生年金の年金額は、報酬比例部分の年金額の4分の3に相当する額です。現状では次のように算定されます。

 ①平成15年3月までの総報酬制導入以前
 平均標準報酬月額(平成6年改正の再評価率)×(1000分の7.5)×被保険者期間の月数

 ②平成15年4月以降の総報酬制導入後
 平均標準報酬額(平成6年改正の再評価率)×(1000分の5.769)×被保険者期間の月数

 (①+②)×1.031(従前額改定率固定)×0.985(スライド率)×(4分の3)

 (1)①死亡した人の要件A~Cの短期要件に該当する場合、被保険者期間が300月未満では、それぞれの期間における被保険者期間に基づいて年金額を計算し、求めた年金額を全被保険者期間で除して得た数値に300を乗じて300月に換算した得た額を年金額とします。Dの長期要件の場合には、平均標準報酬月額についての1000分の7.5については1000分の10~7.61及び及び平均標準報酬額1000分の5.769については1000分の7.692から5.854の死亡した者の生年月日に応じた読替えを行います。読替えが行われるのは、平成21年4月1日以前に生まれた者についてです(参照:5%適正化及び従前額の保障)。

(3)遺族厚生年金の支給停止

 ①労働基準法上の遺族補償が行われるべきものである時には、死亡日から6年間支給を停止する。
 ②夫、父母、又は、祖父母の年金は、60歳に到達するまで支給停止される。
 ③子に支給される遺族厚生年金は、妻が遺族厚生年金の受給権を有する間支給停止される。但し、所在不明及び遺族基礎年金の受給権が無い(妻と子が生計を同一に入していない場合)等で妻が支給停止されているときは、子の年金は支給停止されない。
 ④妻に支給される遺族厚生年金は、遺族基礎年金の受給権が無く子にあるときには、支給停止される。但し、子が所在不明のときは支給停止されない。
 ⑤夫に支給される遺族厚生年金は、子に受給権があるときには、支給停止される。但し、子が所在不明のときは支給停止されない。
 ⑥その他所在不明の場合等は支給停止される。

(4)遺族厚生年金の失権

 ①共通
 A.死亡
 B.婚姻
 C.養子になった時(直系血族又は直系姻族の養子になった場合を除く)
 D.離縁によって死亡者との親族関係が終了したとき

 ②父母、孫、又は祖父母
 死亡当時、胎児であった子が出生したとき、父母、孫、又は、祖父母についての遺族厚生年金は失権します。

 ③子(又は孫)
 A.離縁によって死亡した者の子でなくなったとき
 B.18歳に到達した日以後最初の3月31日が終了したとき(障害の状態である場合を除く)
 C.障害等級1級又は2級の障害の状態にある子について、その状態が止んだ時(18歳に到達した日以後最初の3月31日までの間にある場合を除く)
 D.20歳に到達したとき

メンタルヘルスと安全衛生の諸問題

 メンタルヘルスの問題が具体的に生じてきたときに、法律、判例及び就業規則等との関係でどのように考えるべきか、という視点でランダムにいくつかの問題を取り上げました。今後の勉強課題として理解が深まるに従って、加筆していくことにします。


1.メンタル不調者と受診命令

 メンタル不調者と思われる部下がいた場合、医師の診察を勧めることが部下の不信感を高めてしまうことの無いように注意することは言うまでもないことです。

 その上で、業務上の支障が出てきた場合には、使用者は就業規則又は労働者が負うべき信義則上の義務を根拠にメンタル不調者と思われる労働者に対して健康回復措置としての受診命令を発することができると考えられています。この際に合理的な理由がなければならないとされますが、合理的と判断されるためには、受診を命ずる業務命令が、労働者の疾病の治癒回復目的であり、目的との関係において合理的で相当な方法であることが必要です。そして、労働者の疾病の治癒回復という目的との関係で合理性ないし相当性がある限り、労働者は労働契約上、その指示に従う義務があるというのが判例の立場でもあります。

 さらに、メンタル不調者が現に迷惑行為を引き起こしている場合、当該労働者は、労働提供義務が不完全であり、使用者は、そのような不完全な労務の提供を拒むことができると考えられます。この場合、使用者には賃金の支払い義務はないので、使用者は労務の提供を拒否した上で欠勤扱いとし、その状態が一定期間以上継続した段階で休職命令を発することができると考えられます。

 とはいえ、受診命令や休職命令などについては、トラブル防止の見地からできる限り具体的に就業規則に明示しておくことが望まれます。

(例)
一. 会社は社員が次の各号の一に該当するときは期間を定めて休職を命じることができます。
この休職期間中の社員には給与を支払いません。
(1) 正規の手続きを経て私用のため欠勤が引き続き暦月1箇月にわたったとき。ただし、天災地変による場合を除きます。
(2) 私傷病により完全に業務の遂行ができず、その回復に相当の時間を要すると認められるとき。
(3)・・・・・
一. 会社は社員が休職する必要があるかどうか、又は、復職できるかどうかの判断をするために、社員に会社指定の医師への検診を命ずることがあります。社員は正当な理由なくこれを拒否することはできません。


2.メンタル不調者と解雇

 社員が「私傷病による心身の障害により、業務に耐えられないと認められたときは、原則として解雇します。」などと就業規則に規定している会社は多いと思います。それでは、会社は、メンタル不調者を就業規則の規定をもとに直ちに解雇することができるのでしょうか。

 メンタル不調者の場合、その原因が本当に私傷病なのかという点も考慮されなければなりません。つまり、職場の過重労働などが原因とされて業務上の疾病ということにならないかという視点です。業務上の傷病となった場合には労働基準法の解雇制限の問題になり、解雇できるのは「業務上の傷病にかかわる療養開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けているとき、又は、同日後において傷病補償年金を受けとることになったとき」となります。

 次に考慮されなければならない点は、「解雇権濫用法理」との関係です。解雇権の濫用とされないためには、まず治療を勧め、そのために必要な休業等の健康管理上の配慮を怠らず、できる限りの支援を行うべきでしょう。また、配置転換や業務の変更が可能な職場である場合には、それによって「業務に耐えられない」という状況を回避できないかも検討されてしかるべきでしょう。但し、配置転換等の業務命令も、不当な動機・目的を持ってなされたとき、又は、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである時には、権利の濫用として無効になります。


3.休職と復職を繰り返す

 復職にあたっての最重要事項は、「確実な復職判定」であり、復職は原則として、「現職復帰」です。医師の復職可の診断に基づき、会社が職務内容及び管理者などを総合的に勘案して、復職を判定します。この場合、上司は正当な理由なしに受け入れを拒否することはできません。但し、メンタル不調の原因が元の職場におけるストレスによることが明らかな場合、安全確保のために家族の支援が必要な場合、又は、社会的な支援が不可欠な場合などには、人事異動、職場内配置転換などの柔軟な対応が望まれることになるでしょう。

 トラブルを防止する会社側の観点として、就業規則を検討しておく必要があります。同一又は同一に近い疾病で再度療養するということは、そもそもその疾病が完治していなかったと考えられます。そこで、ある一定期間内に再び長期療養に入った場合には、同一又は同一に近い一つ一つの疾病を個別の休職事由とはみなさず、合わせて一つの休職事由として期間を通算する規定を設けます。また、完全な労務の提供ができない場合も休職の扱いができるような規定を設けておく必要があります。

(例)
一. 会社は社員が次の各号の一に該当するときは期間を定めて休職を命じることができます。
この休職期間中の社員には給与を支払いません。
(1) ・・・・
(2) 私傷病により完全に業務の遂行ができず、その回復に相当の時間を要すると認められるとき。
(3) ・・・・
一. 復職後●箇月以内に同一の私傷病が再発した場合には、休職期間の上限は以前の休職期間と通算します。この場合、再発後に付与される休職期間は、以前に付与された休職期間を控除した期間になります。
一. 会社は社員が復職できるかどうかの判断をするために、社員に会社指定の医師への検診を命ずることがあります。社員は正当な理由なくこれを拒否することはできません。

メンタルヘルス_適応アプローチ再考

 「メンタルヘルスマネジメント入門」を読んで勉強している適応アプローチは、医療依存アプローチに対する概念で、うつ病などメンタル不調者の問題に、職場で指導的な地位にある管理職を中心に積極的に係わってその予防、早期発見又は復職などに一定の役割を果たしていこうとする考え方です。現実問題として、メンタル不調者が急増している状況ですし、職場のストレスが遠因となったと思われる奇妙な犯罪も一昔前に比べると頻発しているように思えます。企業社会がメンタルヘルス不調者の問題に対して、何らかの方策を取ろうとして動き出すのは至極当然の話です。

 しかしながら、人間社会が近代化すると共に、地縁や血縁、友情で深く結びついた伝統的社会形態であるゲマインシャフト(Gemeinschaft)からゲゼルシャフト(Gesellschaft)へと変遷していくということは、社会学の通説です。ゲゼルシャフト(Gesellschaft)は、独語で「社会」を意味する語であり、テンニースが提唱したゲマインシャフトに対する対概念で、近代国家や会社、大都市のように利害関係に基づいて人為的に作られた社会(利益社会)を指し、近代社会の特徴であるとされ、ゲマインシャフトとは対照的に、ゲゼルシャフトでは人間関係は疎遠になるのです。今日、会社の人間関係はゲゼルシャフト的なものだけにしたいという考えを持った管理職の方も大勢いると思われ、語弊があるかもしれませんが、ゲゼルシャフトの典型ともいえる会社に適応アプローチを持ち込むことには、そもそも困難が付きまとうのかもしれないということが考えられるのです。

 また、「銀座まるかん」の創業者斎藤一人さんは、著作の中でいじめの問題について先生に相談しても解決できずに取り返しのつかないことさえ起こってしまうことについて、「殴られた、お金を取られたというのは、警察が解決すべき問題です。子供のいじめが解決できないという人は、そのことに気づいていないのです。解決方法がまちがっているのです。」と述べています。これも世の中そう単純なものでもないので、個別具体的に見て判断する必要があるのでしょうが、「学校の問題」=「先生が解決すべき問題」と発想が硬直的になっているのであるならば、発想の転換ということが有効になることもあるのでしょう。メンタルヘルスについて言えば、「メンタル不調者」=「医師が解決すべき問題」という発想が硬直的ならば、適応アプローチに有効性が大いに認められるかもしれませんし、「職場のメンタル不調者」=「企業の管理、職場環境の問題」という発想だけでは、問題解決には至らないこともまた明白です。

 我が国は、元々農村を中心とした共同体社会であったと言われています。水田稲作農業は、農民が同じ周期で協力して働くことによって、生産性が高まるという性格の強い産業で、強固な地縁・血縁共同体の伝統を持った社会が形成され、強い共同体への帰属意識が育まれたのだと思います。そのような伝統的な意識の残滓は、近代化した後にも残っていたと思われ、つい一昔前まで大企業でさえ家族的な雰囲気を保持してきた側面があります。

 そして、仕組みとしては、ゲゼルシャフトの典型でありながら、伝統的共同体的な色彩を残した企業という存在が、年金制度からストレス軽減まで本来の「利益追求」という存在目的以外の役割を担ってきたために、比較的円滑に社会全体がうまく機能してきたのが我が国の特徴であったように思えます。この辺りは、大企業と中小企業で状況は異なると思われますので、個別の検証が必要で、一般論でくくるのはやや気が引けますが...

 今日顕在化している多くの問題は、我が国が成熟期から衰退期に入り、経済が成長しなくなったため、ゲゼルシャフトである企業がその存立基盤にかかわる「利益追求」に傾倒していかざるを得ない状況に追い込まれ、それ以外のことで四の五の言ってはいられない状態が生み出した結果ともいえるのだと思われます。

 そこで、問題解決のためには、何に指針を求めていくのか、“Mental Helth Management”と言い、欧米の理論や事例に範を求めるのか、はたまた、孔子や孫子の古典に戻るのか、一つだけの正解はないのだと思います。管理職は、各々ジタバタして個々人の「心」の中に正しい解答を求めていくしかないのだと思います。

メンタルヘルス_管理職の心得

 「メンタルヘルスマネジメント入門」(佐藤隆著/ダイヤモンド社)を読んで、メンタルヘルスの勉強をしています。うつ病などで心を病む労働者が急増して社会問題になっている中で、医療依存アプローチに対する概念として「適応アプローチ」という考え方を紹介しています。これは、医療依存アプローチがメンタル不調を疾病として扱い、従って、疾病の原因を特定してその原因を除去することを主眼とする考え方であるのに対して、適応アプローチでは、メンタル不調の原因を主にストレスにうまく対応できているかという点に求め、職場における管理職としての日常業務の中で部下を勇気付けたり、相談にのったり、職務の支援をしたりすることで、ストレス反応の軽減を図ることを重視しています。つまり、医師が主役で対症療法的な手法から、医療の有効性を認めつつ、その前段階として、管理職が意識を変えて予防及び早期発見の観点からメンタル不調者に関わっていく手法を職場に取り入れるべきという考え方です。

適応アプローチの背景には、多くのメンタル不調は職場のマネジメントや管理職のリーダーシップと密接な関係があることが明らかであるにもかかわらず、職場の問題を解明して職務ストレスを軽減することによる効果を理解せず、実行しないまま、医療に過度に依存してきたことが、今日のメンタル不調者の急増をもたらしたという反省があります。


1.メンタル不調者の発見

 管理職がメンタルヘルスにどのように対処するか、という点で、メンタル不調者の「発見」という観点やメンタル不調者に対する「対応」ということがまず頭に浮かびます。しかし、その前に指導的立場に立つ管理職が意識しなければならないことは、「部下の心の在り方」に関心を持つということです。会社が利益を追求する集団である以上、管理職が「業務成績」や「成果」を追い求めるのは当然ですが、リーダーの方向性があまりに業績・成果志向だけに傾くと、短期的には業績が向上するものの、水面下でメンタル不調者の予備軍が増えてしまい、これが表面化したときには、会社の安全配慮義務違反を含む取り返しのつかない問題に発展してしまうことさえあります。

 「部下の心の在り方」に関心を持つということとは、具体的にどう言うことかというと、カウンセリングやコーチングといった言葉に代表されるような傾聴法又は共感の示し方など技術面につい目が行ってしまいますが、重要なことは、「カウンセリング・マインド」、つまり相手に関心を持つ「心」です。部下に対する「思いやり」といっても良いかもしれません。管理者は、「自分自身は、本当にこの部下のことを知ろうと思っているのか。」「部下の力を信じているのか。その力を引き出したいと思っているのか。」こうした問いを自問し続けることが真のカウンセリング・マインドにつながります。

 このようなカウンセリング・マインドを管理職が意識してくると、職場の指導者として、部下の話をきちんと聴けるようになります。命じたり語ったりすることも大切ですが、この聴くことが管理職自身のメンタルヘルスにも良い効果をもたらします。

 次に、カウンセリングによって部下の何を知るべきかという点です。メンタル不調の未然防止という観点からすると、以下の3点が挙げられています。しかし、一昔前の村社会的な側面が強かった時代に比べ、個人的な所に入っていくのは今日では非常に難しくなっていると思います。現代という時代は、信頼関係の構築が今までにも増して重要かつ困難になっているということであり、そのこと自体、メンタル不調多発の原因の一つなのではないかと思います。
(1)個人的要因:性格の特徴。どのような時にストレスを感じ、どのような時に達成感を感じるか。
(2)仕事以外の要因:仕事以外でストレスを発生させる要因として何があるか。
(3)緩衝要因:職場の人間関係はうまくいっているか。


2.メンタル不調者が出てしまったら

 今日では、いかに未然防止に注力しても、メンタル不調者になる人が出てきてしまいます。そこで、次に重要なことは、深刻な事態になる前に部下のだす兆候を見極める「早期発見」の視点です。初期段階で、管理職が部下のメンタル状況を正しく見極めるための要点は次の通りです。

(1)部下の「正常」を把握する
「うちの部下の様子が変だ」と判断するためには、その部下の「正常」の状態を認識できていることが必要です。メンタル不調者に典型的に表れる「いつもと違う状態」とは、以下のようなものが挙げられます。

 ①欠勤、遅刻など時間管理の乱れが見られるようになる。
 ②仕事上のミスが多くなる。業務に必要以上に時間がかかるようになる。
 ③些細なことで泣く、怒る、など感情の起伏が激しくなる。
 ④会社を辞めたい、自分はダメだ、死にたいなど否定的なことを口にする機会が増える。
 ⑤表情が乏しくなり、顔色が悪くなる。

(2)状態の「継続性」に着目する
 どんなに精神的に健全な人であっても、いつもと違う状態に陥ることはあります。人間ならば誰しも、ある条件下に置かれたとき、不眠、パニック状態又は落ち着かない状態などに陥るでしょう。しかし、そうした状態は継続的なものではなく、普通はすぐに正常な状態に戻ります。それに対して、メンタル不調に陥った人の特徴として、その「いつもと違った」状態が、継続的に続くことが挙げられます。「継続的」とは、時や場所に関係なく、会社にいる時も、自宅でも、休日であってもその状態が続き、かつ、そういう状態が一定期間以上続くという意味です。

(3)部下の「イベント」に気を付ける
 ここでいう部下の「イベント」とは、仕事上の責任や過労、職場における対人関係トラブルなど「負」のイベントだけではなく、昇格や栄転、自宅購入、結婚など「正」の出来事も含みます。これらの、はた目にはめでたい出来事も、うつ状態発症の引き金になる場合があるのです。こうした「きっかけになりそうなイベント」による変化がストレスになることを配慮し、部下のいつもと違う状態を見極める手がかりとするのです。

 以上の(1)から(3)のような観点を意識しつつ、管理職は独断及び偏見を廃し、「部下のことを知ろうとする誠実な努力をする」ことが重要です。その上で、部下の心身の状態にメンタル不調の兆候を見出したら、「一度、専門家に相談したら安心だよ」といった感じで、自発的に医師など専門家のカウンセリングを受診することを勧めます。


3.メンタル不調者の復職

 次に管理職にとって大きな課題は、メンタル不調で休職した部下をどのように職場復帰させるかです。

(1)計画の策定
 よく見られる失敗例は、管理職の無計画で場当たり的な対応です。復帰時のストレス軽減のために仕事をあまり与えず、「無理をせず、休みながらゆっくりと復帰してくれ」というような指示のみの場合です。一見、部下に配慮しているように見えますが、復職した部下の立場からすれば、仕事のプレッシャーはなくても、周囲の同僚への気兼ねや何も与えられないことへの焦りなどでストレスを感じることがあります。こういった問題を回避するために、少なくとも1箇月程度の勤務の仕方、仕事の割振り、どの位から本格稼働に入るのか見極めの目安など復職した部下と確認しておくことが必要です。

(2)モニタリング
 計画を策定したら、復職者はまだ不安定な状態にあるという前提に立って、しっかりとモニタリングする意識を持って接することが必要です。

(3)情報の共有化
 今日、個人情報の保護は必須事項ですので、本人の了解の下、関係者の情報の共有化をして復職した部下の支援を行います。特に職場においては、表立っては言えないけれどお互いに探り合っているような状況は、仕事のトラブルなどをきっかけに均衡が崩れやすく、結局復職者を傷つけてしまうことが往々にして起こりがちです。本人の病状や復職計画に関する情報は、本人の了解が得られる範囲で共有することが重要になってきます。

(4)正しいメンタルヘルスの知識
 メンタル不調は、身体の負傷などとは異なり、外見上は元気な人とあまり変わりませんが、回復には相当程度の時間が必要です。そのため、少なくとも管理職が正しいメンタルヘルスの知識を持っていないと、計画に従って職場復帰をしようとしている復職者にとって、職場が居づらい環境になり、周囲からの支援など期待できない場所になってしまいます。メンタル不調で休職した者の職場復帰には、職場全体がしっかりとした対応をすることが求められます。管理職に対しては、メンタルヘルスに関する正しい知識を持った上で、職場の全員を復職者に対して誤った対応をしないように導いていく意識が求められます。

5%適正化及び従前額の保障

1.5%適正化

 5%適正化とは、将来世代の負担を過重なものにしないことを目的に今後の年金給付の伸びを抑制するという趣旨から、平成12(2000)年4月より講じられた厚生年金(老齢厚生年金、65歳未満の厚生年金報酬比例部分、障害厚生年金及び遺族厚生年金の報酬比例部分等)についての給付乗率引下げ措置のことを言います。

具体的には、老齢厚生年金等の報酬比例部分の額の算定に用いる給付乗率を5%引下げ、受給権者の生年月日に応じて、1000分の7.125から1000分の9.5(改正前は1000分の7.5から1000分の10)とされました。


2.従前額の保障

 厚生年金の額について、65歳以降は、賃金スライドを行わず、物価上昇率のみで改定することとされました。このため、老齢厚生年金等の報酬比例部分の額の算定に用いる平均標準報酬月額を算出する際に使用する再評価率表が定められました(註1)。

(註1)再評価率
年金額の計算に用いる平均標準報酬月額及び平均標準報酬額は、過去の報酬を現在の賃金や物価水準に応じた価格に再評価する必要があるという考え方から、過去の報酬については「再評価率」を乗じて算定した数値を用いています。この再評価率について、従来現役被保険者の名目賃金の上昇率に応じて定める方式がとられていました。その後平成6年の法改正で税・社会保険料を除いた手取り賃金の上昇率に応じて定める方式に変わり、平成12年の法改正で、65歳以降の既裁定者については、賃金スライドを行わず、物価上昇率のみで改定することとされ、再評価率は受給権者の生年度区分に応じて定めることとしました。

 しかし、上記にもかかわらず、適正化前と適正化後、両方で年金額を算出して、金額を見比べます。適正前で計算した年金額の方が多い場合には、その額を保障することになっています。これが、従前額保障です。

 以下の計算例は、15年4月からの改定も含めるともっと複雑な計算になりますので、ここでは適正化12年度改正に絞って説明しています。つまり、今が平成12年度だと仮定した算定式です。

(1)改正前の計算式

平均標準報酬月額(過去の標準報酬を平成6年標準に再評価し、平均したもの)×7.5~10/1000×被保険者月数×平成6年以後の物価上昇率

(2)改正後の計算式

平均標準報酬月額(過去の標準報酬を平成11年標準に生年度区分に応じて再評価し、平均したもの)×7.125~9.5(註2)/1000×被保険者月数×平成11年以後の物価上昇率

 改正前と改正後を比べると、乗率は改正前が高いのですから、大抵の人は従前額が適用されることになります。再評価率は改正後が上がっていますから、中には逆転する人もいます。その方たちについては改正後で計算された年金額を貰うことになります。

(註2)給付乗率の読替え
昭和21年4月1日以前に生まれた者に関して適用され、1000分の7.125を1000分の9.500から1000分の7.230に読み替えます。若い世代ほど給付乗率が低くなり、昭和21年4月2日生まれから一律本来の1000分の7.125となります。