労働契約及び労働契約法について

 社会保険労務士法第10条に定める本試験に合格したのが2006年の第38回社会保険労務士試験だった。それから、同法13条の3の紛争手続代理業務試験に合格し、これによっていわゆる特定社労士の資格を満たしたのが、先月末に発表された第5回紛争手続代理業務試験である。社労士本試験は2回目で受かり、その後勤務登録でだらだらとしていたが、昨年思うところあって特定社労士になるために必要な特別研修を受講、研修直後に受験した試験にも何とか受かったので、これまで成り行きではあったが、今後社労士にとっぷり浸かってみようかというのが現在の心境である。とにかく、職務能力の担保は勉強で補強していかなければならないということで、勉強部屋を開設することにした。

 今回の特別研修で、最高にためになったのは、「労働契約法」の意義又は存在理由が自分なりに明確に理解できたことだった。そもそも労働契約法とは、2008年3月1日施行されたわずか19条からなる法律である。社労士試験合格者は、社労士本試験で「労働基準法」については詳細にわたって鍛えられるため比較的良く知っている。しかし、この労働契約法という法律については、基準法の屋に屋を重ねるような法律という感じで、小生は正直あまり良く分かっていなかった。紛争手続代理業務試験は、本試験とは異なる純然たる記述式試験であり、事例問題(7割)と倫理問題(3割)からなる。その内、事例問題は労働契約法の考え方が最も基本になるため、民法の契約法から始まって、契約法の考え方を労働法的見地から徹底して学ぶことになるのである。

 まず、民法の大原則の中で、契約法の根底にある契約自由の原則は、私的自治の原則に由来する。ちなみに民法の大原則とは、一般に次の4原則である。

1.権利能力平等の原則
2.所有権絶対の原則
3.私的自治の原則
4.過失責任の原則

 契約自由の原則に立脚して、民法は雇用契約について次のように定める;
「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」(623条)

 しかし、使用者と労働者の間にある現実の力の差を考慮して、実質的平等な関係を担保するために、強行法規・取締法規としての労働基準法を中心とした労働法体系が確立されている。労働基準法では、労働関係を契約法的な観点からは規定しておらず、労働者及び使用者について次のように規定する;
「この法律で労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事業所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われるものをいう。」(第9条)
「この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為するすべての者をいう。」(第10条)
つまり、使用従属関係と言う実態があれば、合意成立を要件とせずに労使関係の成立を認め、基準法を適用していくという考え方である。

 以上を踏まえて制定された労働契約法は、むき出しの私的自治ではなく、労働法の考え方及び成果も吸収した上で、労働契約が労使の自主的な合意によって成立することを、労働者の保護が十分に図られることを条件に、改めて提示している;
「この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されると言う合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。」(第1条)
「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意をすることによって成立する。」(6条)

 ちなみに、民法の雇用契約と労働法の労働契約の差異とはいかなるものか。労働契約法は、その第19条で公務員及び使用者が同居の親族のみを使用する場合について適用除外としているのに対し、一般論として民法の雇用契約にはこれらが含まれるのだろう。基準法は「家事使用人」も適用除外だが、労働契約法は適用でよいのだろう。研修教科書だと労働契約に含まれ、雇用契約には含まれない契約が存在する書き方だが、これは民法上形式的に請負契約などに分類されることになっても、合意内容を基準法的な使用従属関係の実態に照らして労働契約が成立しているとするような事例を想定してのことか、と現時点では判断している。