企業の倒産動向に人手不足の影

 ここ2、3年顕著になってきた生産年齢人口の急激な減少による労働市場の人手不足傾向ですが、これによって最近の企業の倒産動向にも変化の兆しがみられることを、16日の日本経済新聞電子版が伝えています。

 記事によれば、「2009年の中小企業金融円滑化法の施行を機に倒産は減少に転じ、同法終了後も企業の返済猶予申請に対して金融機関が柔軟に対応したため、倒産は減少が続いてきた。それが17年上半期の倒産は4247件となり、8年ぶりに前年同期を上回った。倒産をめぐる状況が変わりつつあるのではないか。タカタが6月26日東京地裁に民事再生法の適用を申請したため、上場企業の倒産が1年9カ月ぶりに発生。倒産のトレンドにも変化の兆しがみえる。」とのことです。

 一般消費者を対象にしたビジネスでの倒産で世間の耳目を集めることになったのが、3月27日に東京地裁に破産を申し立てた旅行会社、てるみくらぶ(東京・渋谷)のケースでした。また、エステサロン経営のグロワール・ブリエ東京(東京・港)が3月28日、結婚式場経営のBrillia(東京・渋谷)が3月8日、それぞれ東京地裁に自己破産を申請しています。旅行、エステ、結婚式場は、サービスの提供前に代金を受け取る「前受け金ビジネス」という点でも共通しています。

 業績拡大するなかで倒産する事例も目につくようになってきているようです。相次いで出店する一方で店長となる人材が確保できなかったほか、労働環境に不満を持つ従業員の退社もあったとされる倒産事例もあります。人手不足による倒産の増加はデータでも裏づけられ、2017年上半期は49件の人手不足倒産が発生していますが、これは4年前の2.9倍にあたり、人手不足が続くとみられる中、今後もさらに増加すると予想されます。業種にみると、サービス業が全体の30.6%でトップで、次いで建設業となっています。

 経営者にとって、いかに良い人を採用して、会社に定着して働き続けてもらうか、「採用」と「教育研修」が絶対的に重要な時代に入りつつあるようです。

20170512_高知旅行@高知城

連合、「脱時間給」容認撤回を決定

 本日の日本経済新聞電子版は、労働組合を束ねている連合が27日午前、札幌市で中央執行委員会を開き、労働基準法改正案に盛る「脱時間給」制度を容認する方針の撤回を決めたことを報じています。傘下の産業別労働組合の強い反発があったためで、連合が政府、経団連との間で調整していた修正案の政労使合意は見送られることになりました。連合の神津里季生会長は、今月13日に安倍晋三首相と首相官邸で会談した際、年104日以上の休日取得を義務化するなどの法案修正を要請した上で、条件付きの容認に傾いていましたが、傘下の産別組織から想定を超す反発の声が上がり、組織をまとめきれないとの判断が働いたとのことです。

 いわゆる「残業代ゼロ制度」は、残業時間上限月間60時間を定める一連の働き方改革の柱の一つである長時間労働の是正とは相反する可能性をはらんだ仕組みなわけですから、労働組合がこれに原則反対の立場をとるのは当然のことともいえます。労働基準法改正案に盛られる「残業代ゼロ制度」は、「高度プロフェッショナル制度」とも呼ばれ、年収や職種など一定の要件を満たす人を労働基準法による労働時間規制から外す仕組みです。年収要件は、労働基準法に基づく厚労省告示で、年収1075万円以上などとするとされており、当面この要件に該当する者は限定的ですが、漸進的に要件が緩和されるのではないかという懸念が残り、危惧されているのだと思われます。また、最近の政治情勢の流動化も今回の連合の撤回決定に微妙に影響を与えた可能性も考えられます。

20170512_高知旅行@高知城



健保組合の財政悪化問題

 平成37年(2025年)までに「大企業の健康保険組合の4分の1は財政悪化で解散の危機に追い込まれる。」という驚くべき記事が7月15日の日経新聞電子版に掲載されておりました。財政悪化の主な要因は、高齢者医療制度に対する支援金の増加です。特に、平成29年度からは、算定方法が加入者の人数に応じて計算する方法から「収入」を基準とする方式「全面総報酬割」に移行したことにより、大企業の健保組合など大幅増となったところが多いようです。健保組合にして見れば、保険料が協会けんぽを上回るような状況で社員の福利厚生のため健保組合を維持してゆくという意味が薄れ、そのまま解散に追い込まれるのは必然の流れともいえます。世界に冠たる国民皆保険制度を維持してゆくために、発想の大転換を図らないといけない時期に来ているのかもしれません。かといって、全ての国民が安心して医療を受けられないのに、自己責任で片付けるようなどこかの国の制度をなぞるような愚かな行為をしてはなりませんが。


=== 日本経済新聞電子版 平成29年7月15日 ===

 健康保険組合連合会(健保連)がまとめたこんな内部試算が明らかになった。高齢者向け医療費を補填するための「支援金」が急増するのが主因だ。保険料率が加速度的に上昇していく恐れが高く、高齢者の負担適正化やムダ排除など医療費抑制の議論が避けて通れない。

 東北地方のある企業は高齢者医療向け支援金の割り当て増で保険料率が中小企業が主に加入する協会けんぽを上回る10%超まで上昇。「健保組合を維持する意味が無い」。これ以上の支援金負担増には耐えられないと判断し、組合を解散して協会けんぽに加入した。

 大企業の健保組合は約1400あり加入者は約2900万人。保険料は企業と従業員が原則、折半している。現役加入者への医療費だけでなく、65歳以上の高齢者医療費にも多額の保険料を「仕送り」する仕組みが財政をむしばんでいる。健保連によると17年度は全組合の7割で収支が赤字の見通しで、赤字額は合計3000億円超に達する見込みだ。健保連が内々にまとめた試算では、25年度に協会けんぽの保険料率以上となる組合は380と全体の4分の1に上る。同料率は協会けんぽが赤字にならないように設定する「収支均衡保険料率」と呼ぶもので、このラインを越えた健保組合は協会けんぽに移ったほうが料率が下がるため、解散の引き金になりやすい。

 試算では、25年度には現役世代向けの支出(給付費)が4兆4200億円と15年度と比べて17%増える一方、支援金の伸びはさらに大きく39%に達する。実額では支援金は4兆5400億円まで膨らみ、この段階で組合員向けの医療費を「仕送り」分が逆転する。加入者の負担は増加の一途だ。保険料率は15年度の平均9%から25年度に同11.8%に急上昇する見通し。健保組合では実際の年収ではなく、国が定めた「標準報酬」という収入額に料率をかけて保険料をはじき出す。年収600万円のモデルケースの場合、保険料の自己負担分だけでもこの間におよそ8万1千円増えることになる。

 医療費の約6割は65歳以上の高齢者が使う。推計では医療費が25年度にかけ年3.7%ずつ増えると仮定。ここ数年の傾向からすると高めの数字だが、伸び率を3.2%とした中位推計でも25年度には支援金が医療費を逆転する。支援金の計算方法は「総報酬割」という仕組みに今年度から全面的に切り替わった。加入者の人数に応じて計算していたが、新方式では算定の基準が「収入」に変わり、収入の高い加入者が多い大企業へのしわ寄せが強まった。すでに出光興産の健保組合が今春に13年ぶりに保険料を引き上げるなど、料率を低めに据え置いてきた組合も軒並み料率を引き上げている。

 協会けんぽには15年度で約1兆3千億円の国庫補助が投入されている。仮に380組合が解散して協会けんぽに合流してくると国の財政負担も1800億円増える計算だ。

=== 転載終わり (下線は浅草社労士) ===

20170512_高知旅行@はりまや橋

定額残業手当などの問題整理

 タクシー業界などの時間外手・深夜労働に対する割増賃金の支払い方法は、問題になることがあるようです。東京都社労士会会報7月号の労働判例解説は、国際自動車事件(最高裁第3小法廷判決 平成29年2月28日)を取り上げておりました。この事案では、労働基準法37条の趣旨、割増賃金の算定・支払方法が明示的に判示された点が注目されています。解説を読んだ浅草社労士も、固定残業手当など、変則的な割増賃金の支払いをしている場合の考え方について明確な指針になる判決だったと思い、要点整理をしておくことにしました。しかし、国際自動車の割増賃金及び歩合給を計算する方法というのは、何だかよく分からないものでした。最高裁の判断は、高裁差戻し判決ですので、下記に述べるような基準で違法かどうか高裁で再検討されることになるのでしょう。


(1)労働基準法37条は算定方法まで縛ってはいない

 労働基準法37条とそれを受けた施行規則19条1項は、割増賃金の算定・支払方法について定めていますが、必ずしも法定の算定方法により割増賃金を算出することが義務付けているわけではないと解釈されています。例えば、営業手当を固定残業手当として支払っているとか、基本給、歩合給などの中に割増賃金を含むといったやり方であっても、今回の最高裁判決によれば、必ずしも37条に抵触することにはなりません。判決文によれば、「労働基準法37条等に定められた算定方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金お定めを労働基準法37条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない」 といっています。


(2)変則的な割増賃金の支払いをしている場合の合法性判断基準

 営業手当を固定残業手当として支払っているとか、基本給、歩合給などの中に割増賃金を含むといった変則的な方法を採っている場合、労働基準法37条等の算定方法による額以上の割増賃金が支払われているか否かの判断が重要で、その点についても今回の最高裁判決で、「労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算出した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであ」ると明示的に述べられています。

 そして、「上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算出した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負う」とも述べています。また、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かの裁判所における判断は、仄聞するにより厳しいものになってきているということのようですので、注意が必要です。

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条  使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2  前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3  使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
4  使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
5  第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。


20170511_高知旅行@龍馬空港

鬼平とテロ等準備罪

 ご案内の通り、今月15日に「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が国会で可決成立しました。同法は、テロ集団や暴力団など犯罪を目的とする「組織的犯罪集団」を対象とし、2人以上で殺人など重大な犯罪の実行を計画し、少なくとも1人が現場の下見や資金調達といった準備行為に取りかかった段階で、計画に合意した者全員を処罰するというものです。適用される重大な犯罪として277の罪状が特定されています。

 ところで、浅草社労士は、ここのところ仕事の合間に池波正太郎著「鬼平犯科帳」を愛読しています。鬼平犯科帳とは、18世紀の天明から寛政時代にかけ、長きにわたり火付盗賊改めの長官(お頭)を任され、鬼の平蔵の通称で江戸に暗躍する悪党たちを震え上がらせた長谷川平蔵宣以(のぶため)を主人公とする時代小説です。浅草は、作家池波正太郎氏の生誕の地であり、平蔵が日常的に見回りを行った舞台の一部でもあるため、浅草社労士としては鬼平に近しい氣持ちをずっと抱いておったのですが、あるきっかけで台東区立中央図書館内に設置されている池波正太郎記念文庫に足を運び、文庫本を借りて読み始めたというわけです。

 長谷川平蔵が火盗改め長官の任に就いていた時期は、天明の飢饉、寛政の改革(緊縮財政)などと重なり、太平を謳歌していた江戸の町にも凶悪犯罪が比較的多く発生するようになっていたと想像されます。火付盗賊改めというのは、奉行所という当時の司法、警察制度の外にあって自由自在に活動することをゆるされた「特別警察」ともいえる存在で、ともすれば、めんどうな手続きにしばられている町奉行所よりも迅速に容疑者を捕らえることが多かったと池波氏は書いておられます。
 
 ここで注目すべきは、平蔵長官の捜査方法が、容疑者への拷問あり、「おとり捜査」ありで、「予備罪」などは当然のごとく適用して事件を未然に防ぐことを善しとしていることです。現代社会では許容されない行き過ぎた警察権の行使なのですが、平蔵流の高潔な倫理観と清濁併せ呑む卓越した人柄(註1)によってしっかりとたがが締められているためか、それほどの違和感は感じずに物語を読み進められるのは、時代小説の利点といったところでしょうか。

 平蔵長官は、配下の同心・与力たちに加え、多くの密偵を使って捜査を行いますが、彼等の多くは長官の眼鏡にかなった元盗賊だったりします。自らお縄にした盗賊の中で、これはという盗賊を自分に命を預けることを条件に密偵にするというのは、現代の「司法取引」(註2)のようなものでしょうか。彼等を使って「おとり捜査」を含む聞き込みを行います。平蔵は、部下の与力・同心はもとより、密偵達に対しても実に人情味あふれる接し方を貫き、各人の能力を最大限に引き出しています。こういった手法を用いている以上、長官としての彼の責任は重大なのですが、「盗賊や凶悪な男どもを相手に、これを捕らえるというよりも、闘うといったほうがよい特殊なお役目であるし、そればかりでなく、役目柄、独断の指揮をとることが多く、その結果、責任を一身に引き受け、いざとなれば腹を切って自決する覚悟も必要であった。」(「白い粉」より)ということで、部下の重大な失態に関しては、何時でも腹を切って責任をとると覚悟を決めていたのです。

 長官の手足となって働く部下や密偵の採用に関しては、人を心服させる器の大きさがものをいいます。平蔵の人格形成の半分以上は、若き日の本所界隈で無頼者の中に身を投じ、「飲む、打つ、買う」のすさんだ日々を送り、思いがけず様々な経験を積んだことによるようです。妾腹に生まれた平蔵は、正妻である義母からひどい扱いを受けていたため、実家に寄り付かず「本所の銕(てつ)」と呼ばれるならず者で通っていましたが、剣術の稽古だけは熱心で、筋もよかったため、免許皆伝の腕前ということになっています。

 人の採用に関しては、一人で時代劇の主人公のような人生経験はなかなかできるものではありません。良い人を採用するためには、当然その組織が目指す方向性を打ち出す必要がありますが、その上で様々な人の目を通して最終的な決定を下すのがよりよい結果につながるのではないかと思われます。これは、我が国の伝統でもある「万機公論に決すべし」にもつらなる考え方です。スピード経営がとかく強調されがちな昨今ですが、人の採用だけは時間をかけて慎重にということと、どんな制度も上に立つ人の人格に依るところが大きく、だからこそ上に立つ人の責任は須くとてつもなく重いものにしなければならない、というようなことを考えながら愛読している鬼平犯科帳なのでした。

(註1)当時の刑事政策ともいえる人足寄場の設置を提案し、設置後の運用にも当たっています。人足寄場の設置以前には、無宿の隔離及び更正対策として佐渡金山への水替人足の制度がありました。しかし、水替人足は非常に厳しい労役を強いられるものであり、更生というより懲罰という側面が強かったため、犯罪者の更生を主な目的とした収容施設を作ることを火付盗賊改方長官である長谷川宣以(長谷川平蔵)が松平定信に提案し、人足寄場が設置されたのです。

(註2)裁判において、被告人と検察官が取引をし、被告人が罪を認めるか、あるいは共犯者を法廷で告発する、あるいは捜査に協力することで、求刑の軽減、またはいくつかの罪状の取り下げを行う制度。司法取引の結果として軽減された検察官の求刑に裁判所が法的に拘束されるわけではなく、求刑以上の量刑を行うことも可能ですが、司法取引の刑事政策上のメリット、当事者主義の理念から裁判所は司法取引の結果を尊重することが多いとされています。被告人による罪状認否の制度が存在する英米法の国家で可能になる制度であり、アメリカ合衆国では、刑事裁判の大部分で司法取引が行われています。
我が国では司法取引は認められていません。しかし、司法取引を認めるべきとの声はあり、導入に向けた動きが出て2016年5月に改正刑事訴訟法が成立、2018年までに施行される見込みのようです。