改正育児・介護休業法と通勤災害適用範囲

 平成29年1月1日から改正育児・介護休業法が施行されています。改正育児・介護休業法の要点については、平成28年7月28日の記事にまとめてありますが、その他の細かい改正点が労災保険における通勤災害の適用範囲に影響を与えています。細かい点ですが、それらをまとめると以下のようになります。


1.介護休業を取得できる対象家族の拡大

 介護休業取得の対象となる家族は、無条件の(1)配偶者、(2)父母、(3)子、及び同居かつ扶養が要件とされた(4)祖父母、(5)兄弟姉妹、(6)孫でした。平成29年改正で(4)から(6)の「同居かつ扶養」の要件が取り払われました。


2.対象家族の要件緩和による通勤災害への影響

 ところで、通勤災害について、通勤の途中で逸脱又は中断があると、通勤はそこで途切れたとみなされ、逸脱又は中断後に起きた事故等についての通勤災害適用は否認されます。ただし、(1)日常生活において必要な行為で厚生労働省令で定めるもの、(2)やむを得ない理由で最小限度で行う場合については、通勤経路復帰後の移動を通勤に含めるとされています。要介護状態にある一定の家族について継続的に又は反復的に行われる介護のために通勤経路を逸脱・中断することは「日常生活において必要な行為」とされていましたが、前述の対象家族の要件緩和により、別居あるいは扶養していない祖父母、兄弟姉妹、又は孫がいて、この介護に当たっているときにも、通勤災害が認定されるようになりました。

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雇用保険の65歳以上への適用拡大

 本年10月1日の社会保険の適用拡大については、9月11日の記事で解説しました。一方、雇用保険についても年明けの平成29年1月1日から、65歳以上の労働者も適用対象になるなど大きな改正が実施されます。

 そもそも雇用保険の通常の被保険者となる要件は、雇用保険の適用事業所で1週間に所定労働時間が20時間以上かつ31日以上雇用される見込みがある者となっています。ただし、この中に65歳に到達した日以降に雇用された者は含まれないことになっていました。来年1月1日からは、65歳以上の労働者も被保険者に含まれることになります。65歳の労働者への雇用保険適用拡大については、雇入れの時期によって、次の3類型に分けられますが、「1週間に所定労働時間が20時間以上かつ31日以上雇用される見込み」の適用要件を満たせば、いずれも被保険者となると考えます。

(1)平成29年1月1日以降に新たに雇用された場合
 雇用された時点で新たに高年齢被保険者となります。雇用された日の属する月の翌月10日までに資格取得の届出が必要。

(2)平成28年12月末日までに65歳到達日以降雇用されるなどの事情で雇用保険の適用除外となっていた場合
 平成29年1月1日時点で新たに高年齢被保険者となります。平成29年3月31日までに資格取得の届出が必要。

(3)65歳到達前から働いていて65歳以降も同じ事業所等で継続して働き続けたため、高年齢継続被保険者である場合
 自動的に高年齢継続被保険者から高年齢被保険者となります。従って、新たな届出手続きは不要。

 65歳以上の労働者は、年明け以降高年齢被保険者としての各種の給付金を受け取ることができるようになります。

(1)高年齢求職者給付金
 要件:離職していること、再就職の積極的な意思があること、離職前の1年間に雇用保険加入期間が通算して6箇月以上あること
 支給額:被保険者期間1年以上で基本手当日額の50日分、被保険者期間1年未満で基本手当日額の30日分

(2)育児休業給付金及び介護休業給付金

(3)教育訓練給付金

 そこで、氣になるのが雇用保険料なのですが、高年齢被保険者については、平成31年度までは免除ということになっています。65歳以上の労働者がおられる会社、これから雇入れようとする会社は、社労士にご相談をされることをお勧め致します。

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歓送迎会後の帰社中に事故と労災適用2

 会社が企画した歓送迎会出席、その後仕事のため再び事務所に戻る途中で交通事故に遭い死亡した者に労災が適用されるのか、という事案に最高裁がこれを認める判決を下したことは7月11日の記事で紹介しました。この事案に関連して、労基署はこのような場合、業務遂行性を一般的にどう解釈しているのか、それに対応して社労士はどのように案件を取り扱うべきなのか、東京都社労士会会報10月号の特集記事から要点を抜粋してみました。

 厚生労働省が公にしている解釈集によれば、次のような解釈によるべきだとされ、業務遂行性が認められるためには「特別な事情」が必要とされているようです。

 「宴会、懇親会、慰安旅行等、各種の催しが取引上又は労務管理上の必要から対外的、対内的に行われている場合、これに参加した労働者の災害については、まず業務遂行性の判断に困難な場合が少なくない。この種の催しの世話役等が自己の職務として参加する場合(営業課員、庶務課員などに多い)には、一般的に業務遂行性が認められるが、それ以外の労働者の場合には、その催しの主催者、目的、内容(経過)、参加方法、運営方法、費用負担等について総合的に判断しなければならないとしても、特別の事情がない限り、業務遂行性がないのがむしろ通例である。」

 今回の事案が、当初労基署で業務遂行性が否認され、審査、再審査、さらに地裁、東京高裁でもその決定が覆らず、そして最高裁判決にまで及んでしまったことについて、こういった解釈の分かれることが予想される事案の場合、初期の労災保険の請求段階で「項目ごとの主張と請求趣旨を明示した各種証拠及び資料をそろえ、請求趣旨の詳細かつ論理的な記述を心がけることが望ましいと考えられるようです。本事案で言えば、遺族補償年金支給請求書の「災害の原因及び状況」欄に催しの主催者、目的、内容(経過)、参加方法、運営方法、費用負担等懇親会開催の経緯について詳述することが求められます。従って、これらを詳述するための相当量の資料及び証拠の収集が必要だったといえます。

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歓送迎会後の帰社中に事故と労災適用

 労働法体系というのは、比較的物事の実質を見て判断する傾向が強いように思えます。民法などもそうですが、あくまでも条文解釈の余地があり得る範囲内で実質をみるということです。労働者災害補償保険法という法律は、労災について規定している法律です。同法第1条は、「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い...」としています。そこで問題になるのが、「業務上」という言葉です。現実の実務では、業務上と認定すべきか否か、難しい場合も多くあるため、その判断基準として「業務起因性」と「業務遂行性」という概念を導入して判断することになっています。

 確かに一見より緻密で論理的な判断ができるような氣にはなりますが、かえって一般の方の頭を混乱させるだけのように浅草社労士には思えてしまいます。要は、一般の人の健全な常識に訴えて、業務に内在している危険性が現実化したと認められるか、事業主の使用従属関係下で命じられた業務遂行の中で起こったことと見られるか、ということです。といっても、何だかまだ分かったような分からないような表現になってしまいます。そこに、実質を見るといってもある程度形式的な判断基準の必要性が出てくる土壌があるわけですが、これまで、職場での飲み会などに参加した後に起こった事故については、ほぼ自動的に業務上の要件を満たさないと判断されていました。帰りがけに事故にあった場合には、通勤災害と認定される可能性が出てきますが、仕掛かり仕事を再開しようと会社に戻ろうとしている途上で事故にあったというのが本件で、当初労災が認定されず、裁判所の判断を仰ぐこととなりました。今回最高裁判決では、この飲み会及びその前後の行動自体が亡くなった男性の置かれた具体的な状況に照らして業務上の行動であったという判断をしており、労災を認めるべきであるとの判決が下されました。

=== 日本経済新聞電子版 7月8日 ===

 判決によると、男性は福岡県内の会社に勤務。2010年12月、残業を中断して中国人研修生の歓送迎会に参加した。男性は社用車で研修生を自宅に送った後、会社に戻る予定だったが、途中で交通事故を起こし亡くなった。男性は飲酒していなかった。同小法廷は、上司の呼びかけで歓送迎会が開かれ、経費が使われたことを挙げ、「親睦のために会社が企画した行事で、事業活動に密接に関わっている」と判断した。男性は社長への資料の提出期限が翌日に迫っていることを理由に参加を断ったが、上司から「今日が最後だから」などと参加を求められた。判決は「資料の提出期限は延期されず、歓送迎会後に職場に戻ることを余儀なくされた」と認めた。

 労働基準監督署は労災にあたらないとして遺族補償の給付を認めず、妻が処分の取り消しを求めて提訴。一、二審判決は「有志で親睦を深める私的な会合が業務とは認められず、上司が帰社を命じたとも言えない」として妻側が敗訴した。福岡労働局は「判決の趣旨に沿って速やかに手続きを進めたい」とコメントした。

=== 転載 終わり ===

(参 考)
通勤災害を否定する通勤経路の逸脱、中断
通勤途中で逸脱または中断があると、その後は原則として通勤とはなりません。
(1)逸脱・・・通勤の途中で通勤と関係ない事で経路を逸れること
(2)中断・・・通勤の経路上で通勤と関係ない行為を行うこと

以下は例外として、その後も通勤途上とされる。
逸脱、中断の部分を除き、経路に戻った後は再び通勤となります。
(1)日常生活において必要な行為で厚生労働省令で定めるもの
(2)やむを得ない理由で最小限度に行う場合
例えば、
(イ)日用品の購入その他これに準ずる行為
(ロ)職業訓練、学校において行われる教育
(ハ)その他これらに準ずる教育訓練で職業能力の向上等を受ける行為
(二)選挙権の行使その他これに準ずる行為
(ホ)病院等での診察又は治療を受ける行為

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育児休業と育児休業給付の最終日

 早いもので、平成28年も半分が過ぎ去ろうとしています。特に、本年前半は、公私ともに様々な出来事が常に襲ってきているようなめまぐるしい半年でありました。

 さて、ふとどきといわれるかもしれませんが、男性社労士は一般的に苦手とする育児休業関係のイロハのお話です。それは、育児休業が一体いつまで取れるのかという問題です。条文によれば、原則として、養育する1歳に満たない子について育児休業を取得することができる、すなわち子が「1歳に達する日まで」です。法律上年を取るのは、誕生日の前日ということになっています。従って、7月1日が誕生日の子供を養育するために育児休業を取得している親の育児休業最終日は、原則として本日6月30日ということになります。

 ところで、育児休業を取得している間、「働かざる者、賃金なし」の原則で、無給にしている会社が一般だと思われます。しかし、これでは安心して育児に専念できないということで、雇用保険から休業開始から180日まで平均賃金の3分の2、それ以降は50%が育児休業給付として支給されることになっています。では、この給付はいつまで行われる最終日はいつになるのか。前述の育児休業期間とは微妙に異なり、「育児休業開始日から、育児休業に係る子が1歳に達する日の前日までの期間」とされています。つまり、1歳の誕生日の前々日まで、上記の事例に則して述べるとすれば、6月29日までということです。

 なんでこんなに面倒なことにしているのか、男性である浅草社労士には、到底理解不能です。おそらく、女性社労士にとっても意味不明なところではないかと想像はしているのですが...。

201606_紫陽花@上野公園