産業医の権限強化へ

 地味なニュースですが、過重労働などによる体調不良やメンタル不調など重要課題に対処していく方策の一環として、産業医の役割がより機能的になるよう見直しが行われているようです。(1)産業医の事業所巡視義務を事業主が同意すれば、月1回から2月1回とすることができる、(2)事業主に対して健康診断結果に関する産業医への情報提供を義務化する、(3)事業主に対して1月当たり100時間を超える労働者に関する情報提供を義務化する、の3点は6月1日から施行されています。

 日本経済新聞電子版によれば、厚生労働省は長時間労働や過労死を防ぐため、2019年度にも企業で働く産業医の権限を強化し、企業に対し、過重労働を抑えるためにとった対策を産業医に報告するよう義務付けたり、選任した産業医を安易に解任できない仕組みを設けたりする、とのことです。


=== 日本経済新聞電子版 平成29年6月18日 ===

 現行法では従業員50人以上の事業所に対し、産業医の選任を義務付けている。産業医には従業員への面接指導のほか、職場を月1回は巡回することなどが求められている。ただ企業との連携が進まず、働き過ぎを防げていないとの指摘もある。厚労省は産業医の指導の効果を高めるには、企業の対策や従業員とのやりとりを一定程度、把握する必要があるとみる。

 そこで企業には産業医との情報共有を促し、就業時間の削減や配置転換など講じた手立てを報告させる。産業医は企業の報告や情報をもとに従業員と面談する。対策を講じない企業には説明責任を果たすよう求める。今は企業と産業医がそうした情報を交換する規定がない。

 産業医が意見を言いやすい環境もつくる。企業が産業医との契約を打ち切るときはその理由を労働組合側に知らせる。企業に都合の悪い指摘をした産業医を簡単に解任できないようにする狙いだ。

 産業医の権限強化は、政府が進める働き方改革の一環。病気と仕事の両立やメンタル不調の改善で産業医が果たす役割は大きいとしている。残業時間の上限規制や正社員と非正規の不合理な待遇差をなくす「同一労働同一賃金」などと合わせ、今秋の臨時国会に関係法案を提出する方針だ。

=== 転載終わり (下線は浅草社労士) ===

20170511_高知旅行@龍馬空港

「社員をうつ病に」社労士事件の雑感

 もう20年も以前ことですが、大手証券会社の海外駐在員をやっていたときの話。米国人の中年おじさんが浅草社労士の上司でした。この人は、ドイツ系とアイルランド系の移民の血を引く白人で、労働階級からのたたき上げでしたが、比較的保守的な考え方を持っていたような氣がします。あるときその米国人上司が口にしたこんなジョークがありました。「日本では、融通の効かない官僚制度が批判されているようだが、何なら要らない官僚たちをアメリカで引き受けてあげてもいいよ。その代わり、米国人弁護士をごっそり日本に輸出させてくれるならね。」

 米国は言わずと知れた訴訟社会ですが、彼に言わせれば、紛争は多すぎる弁護士がつくり出しているのだということでした。確かに、この意見には一理あります。とはいえ、米国は異なる様々な文化的背景を持った人々が共に暮らす移民国家であり、摩擦や紛争が生じることはむしろ必然で、これらを調整しなければらならい社会的要請は、我が国をはじめとする自然発生的な国家に比べると、格段に高いということも確かなのだろうと想像できます。

 また、欧米社会を形成する背骨の一つであるキリスト教は、善悪二元論的傾向が強い感じがしていますが、これは、ゾロアスター教の二元論の考え方が入っているという説を聞いたことがあります。勧善懲悪は、クリスチャンに限らず、万人受けする考え方ではありますが、我が国の仏教のあり方や「和を以て貴しとなす」と書かれた17条憲法などを勘案すると、我が国の伝統的な思想は、善悪二元論とは離れたところにあったのではないかと考えられます。我が国で伝統的に善しとされた態度というものは、基本的には「和を以て貴しとなす」であり、元々争いのないところに敢えて紛争を持ち込まないことでした。この傾向がみられるのは、近いところだけ見ても、戦後の企業内組合、善玉と悪玉が必ずしも明確でないリアルロボットアニメの隆盛など、また、極端に悪い方に作用しているのが戦後の日本外交の一部などです。これらは、突然に現れてきたものなどではなく、民族の歴史や伝統を反映したものであったともいえるのではないでしょうか。

 そんなことを考えさせてくれたのが、昨年から社労士業界を騒がせたこの事件です。どうも、事件はいまだに収束しておらず、紛争状態が続いているようです。件の社労士先生に関しては、ちょっとやり過ぎたという印象を持たざるを得なかったのですが、徹底抗戦を続ける旨、新聞が報じていました。確かに、近年の我が国の動向と言ったら、グローバル化、英語公用語化、規制緩和、物・金・人の流れの自由化等々をもてはやし、「和を以て貴しとなす」の伝統をどんどんかなぐり捨てていきそうな勢いなので、その流れにはそった出来事なのだという見方もありなのかもしれません。

 さて、冒頭の米国人上司の問いかけに対する浅草社労士の返事ですが、もちろん、「それだけはご勘弁を(汗)」だったように記憶しています。

=== 朝日新聞 電子版 平成28年6月21日 ===

 ブログに「社員をうつ病に罹患(りかん)させる方法」と題する文章を載せたとして、愛知県社会保険労務士会から会員資格停止3年間の処分を受けた県内の社労士男性が、処分の取り消しと100万円の損害賠償を求める訴えを名古屋地裁に起こしたことが20日、わかった。提訴は1日付。男性は昨秋、問題のある社員をうつ病にするとして独自の方法をブログに紹介。社労士会は「社労士の信用または品位を害する行為」だとして、昨年12月に資格停止処分と退会勧告を出した。訴状で男性側は、弁明の機会だった理事会の開催連絡が4日前と直前で、本人や弁護士が出席できなかったといい、「処分は弁明の機会が与えられないまま行われており違法」と主張している。また、ブログの内容も「必ずしも悪質とは言えず、処分は裁量権の逸脱だ」などと訴え、処分の取り消しを求めた。 社労士会は取材に対し、「会則にのっとって適切に対応しており、処分に違法な点はない」としている。

 男性は国に対し、業務停止3カ月の懲戒処分の取り消しも求めており、名古屋地裁で訴訟が続いている。(斉藤佑介)

=== 転載 終わり ===

皐月の連休に撮った写真 ↓ ↓ ↓
201604_日本丸@港未来

パワハラと業務上の叱責_前田道路事件(松山地裁判決)

 先日、ハラスメントに関する社労仕向けの研修を受講して参ったのですが、○○ハラスメントという言葉が濫発される中、名称にはあまりこだわらず、人としての権利や尊厳が侵害されているか否かという視点で見て行くことにより、よりましな判断ができるだろうという結論でした。「本人が不快なセクハラと感じたならば、セクハラなのだ」いった類の解釈もさかんに喧伝されているようですが、社会通念及び合理的妥当性の観点から、じっくりと判断基準を熟考しておくべきことを痛感させられました。

 43歳の営業所長の自殺の原因が会社によるパワハラであるとして、不法行為及び債務不履行による損害賠償の請求が争われた前田道路事件を採り上げます。この事件では、労災認定において会社側が遺族の生活を第一にという方針で全面協力を行い、労災認定がなされましたが、その後遺族が会社に対して民事上の損害賠償請求の訴えを起こしたものです。1審の松山地裁は、自殺した営業所長の責任による過失相殺は是認したものの、遺族側の訴えをある程度まで認めて、会社側に損害賠償を命じましたが、控訴審では、1審判決を取消し、控訴を棄却しました。高裁判決は、上告審でも支持され、本件は訴えた遺族側の敗訴が確定しています。


1.事案の概要

 Y(被告、控訴人)の四国支店東予営業所長を務めていたAが、平成16年9月13日、同営業所内で自殺したことに関して、Aの相続人であるXら(原告、控訴人)が、Yに対し、Aの自殺は、上司から社会通念上許容される範囲を著しく超えた過剰なノルマ達成の強要や執拗な叱責を受けたことなどにより、心理的負荷を受けてうつ病を発症し、又は増悪させたためであるなどと主張して、
1.主位的に、不法行為(民法 715 条)に基づき、損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた。
また、Xらは、
2.予備的に、(1)恒常的な長時間労働、(2)計画目標の達成の強要、(3)有能な人材を配置するなどの支援の欠如、(4)A に対する叱責と架空出来高の改善命令、(5)業績検討会等における叱責、(6)メンタルヘルス対策の欠如等の債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた。

 請求の金額は合わせて1億4500万円を超える額に上り、具体的には、以下のようなものでした。
1.不法行為に関する請求
  (1)原告X1に対し、7316万4397円及びこれに対する平成16年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払い。
  (2)原告X2に対し、7206万4397円及びこれに対する平成16年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払い。
2.債務不履行(安全配慮義務違反)に関する請求
  (1)原告X1に対し、7316万4397円及びこれに対する平成17年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払い。
  (2)原告X2に対し、7206万4397円及びこれに対する平成17年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払い。


2.解 説

(1)争 点

 パワハラが原因で営業所長が自殺した事件とされる本事案では、以下の点が争点となりました。
① 不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)の有無
   ア 社会通念上正当と認められる職務上の業務命令の限界を著しく超えた過剰なノルマ達成の強要及び叱責の有無について
   イ 恒常的長時間労働、計画目標の達成強化、支援の欠如、叱責と改善命令、業績検討会における叱責等、安全配慮義務違反を根拠付ける事実の存否
② 相当因果関係の有無
  労災認定においては、Aの自殺とAの営業所長としての業務との相当因果関係が既に認められている。
③ 予見可能性の対象及びその有無
④ 損害額
⑤ 過失相殺の可否
  自殺の当時、営業所長であったAは、自ら作成した営業所の事業計画の達成状況を良好に見せるため、「不正経理」を行っており、Yからその一部を指摘され、その是正を求められていたが、1年以上も指摘された不正経理の是正を行わなかった。その上、不正経理の全容をYに開示することもなかった。

(2)判決要旨

① 不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)の有無
 Xらは、Yは、Aに対し、社会通念上正当と認められる職務上の業務命令の限界を著しく超えた過剰なノルマ達成の強要又は執拗な叱責をしたと主張する。
  ア 認定した事実によれば、営業所は、独立採算を基本にしており、過去の実績を踏まえて翌年度の目標を立てて年間の事業計画書を作成していたこと、東予営業所の第79期の計画はAの前任者が作成したが、第80期の年間計画は東予営業所の過去の実績を踏まえてAが作成し、四国支店から、特に事業計画の変更要請はなかったことが明らかであり、東予営業所における営業環境が困難なものであることを考慮しても、当初の事業計画に基づく目標の達成に関しては、Yが、Aに対し、過剰なノルマ達成を強要したとは認められない。
  イ しかし、約1800万円の架空出来高を遅くとも会計年度の終わりまでに解消することを踏まえた上での事業計画の目標値は、年間業績で赤字を計上したこともあったことなど東予営業所を取り巻く営業環境に照らして達成困難な目標値であったというほかなく、平成16年のお盆以降に、毎朝工事日報を報告させて、その際ほかの職員が端から見て明らかに落ち込んだ様子を見せるに至るまで叱責したり、業績検討会の際に「会社を辞めれば済むと思っているかもしれないが、辞めても楽にならない」旨の発言をして叱責したことは、不正経理の改善や工事日報を報告するよう指導すること自体が正当な業務の範囲内に入ることを考慮しても、社会通念上許される業務上の指導の範疇を超えるものと評価せざるを得ないものであり、Aの自殺と叱責との間に相当因果関係があることなどを考慮すると、上記Aに対する上司の叱責などは過剰なノルマ達成の強要あるいは執拗な叱責として違法であるというべきである。

 Xらは、さらに、恒常的長時間労働、計画目標の達成強化、支援の欠如、叱責と改善命令、業績検討会等における叱責等を安全配慮義務違反を根拠付ける事実として主張する。この点、前記のとおり、不正経理是正に伴って設定された目標値が達成困難なものであり、不正経理是正等のためにAに対してなされた叱責は、過剰なノルマ達成の強要あるいは執拗な叱責として違法と評価せざるを得ないものであるから、これらが被告の安全配慮義務違反を基礎付ける事実に当たることは明らかであるので、その余の点について判断するまでもなくYの安全配慮義務違反を認めることができる。

② 相当因果関係の有無
 認定した事実によれば、Aは、東予営業所所長に就任後、自らの営業成績を仮装するために行った不正経理の是正のため、平成16年7月2日には四国支店に呼び出されて上司から叱責を受け、同年8月中旬以降からは早朝に工事日報を報告するよう指導され、日報報告の際に電話で叱責を受けることがあったこと、同年9月9日には東予営業所を訪れた四国支店長から業務遂行における改善指導を受け、同月10日に行われた四国支店上司が出席する業績検討会においても同上司らから不正経理の責任を取るのは所長である旨叱責・注意を受けたこと、同年8月中旬以降に作成された「怒られるのも、言い訳するのも、つかれました」との内容を記載した遺書を残して、前記業績検討会の3日後に自殺したことが明らかであり、遺書の内容や責任を追及する旨の叱責が行われた業績検討会に近接した時期に自殺が行われたことや遅くとも自殺の直前にはうつ病に罹患していたことを考慮すると、不正経理についての上司によるAに対する叱責・注意が、Aの死亡という結果を生じさせたと見るのが相当である。

③ 予見可能性の対象及びその有無
 労働者の疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知のところであること、Aの上司は、Aに対し、不正経理の是正等のため叱責等を繰り返し行っており、その中には社会通念上許される業務上の注意の範疇を超えるものと評価せざるを得ない叱責等もあること、会社を辞めても楽にはならない旨の発言をするなどAが会社を辞めなければならなくなる程度に苦しい立場にあること自体は認識していたこと、東予営業所の実情を調査せず、Aの申告による約1800万円の架空出来高の背後に更に大きな不正経理があることに気付かないまま、結果的には効果的ではなかった是正策を厳しく求めたことなどに照らすと、Aが心理的負荷から精神障害等を発症し自殺に至ることもあるということを予見することもできたというべきである。

 Yは、Aの上司らは、Aがうつ病に罹患していることやその兆候となる事実をAの上司らが認識していたとの事実は認められず、認識し得る事情もないと主張するが、前記にあげた事情を考慮すると、うつ病に罹患していることやその兆候なる事実を認識しあるいは認識可能でなかったとしても、自殺に至ることは予見可能であったというべきであるし、適切な調査をしておれば、更にその認識可能性はあったというべきであり、自殺に至ることも予見可能であったというべきである。

④損害額、⑤過失相殺の可否
 身体に対する加害行為を原因とする被害者の損害賠償請求において、裁判所は、加害者の賠償すべき額を決定するに当たり、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度でしんしゃくすることができる(最高裁判所昭和59年(オ)第33号同63年4月21日第一小法廷判決・民集42巻4号243頁参照)。

 認定した事実によれば、Aの上司による叱責等はAが行った不正経理に端を発することや上司に隠匿していた不正経理がうつ病の発症に影響を及ぼしたと推認できることが明らかであり、これらの事情は損害の発生又は拡大に寄与した要因であると認められる。そして、一連の経緯の発端、東予営業所に関する経営状況、Aの上司の叱責等の内容、Aが隠匿していた不正経理の総額とそこに至った事情等を総合的に考慮すると、Aにおける過失割合は6割を下らないと認めるのが相当である

 以上によれば、Aに生じた損害額合計1億1701万4165円、原告X1に生じた損害額300万円及び原告X2に生じた損害額200万円についてそれぞれ6割の過失相殺を行うと、Aに生じた損害額は4680万5666円、原告X1は120万円、原告X2は80万円となる。原告らは、葬祭料115万7820円を受けており、これは損益相殺としてAに生じた損害額から控除すべきである。そうすると、Aに生じた損害額は4564万7846円となり、原告らはこれを2分の1ずつ相続するから、原告X1の損害額合計は2402万3923円、原告X2の損害額合計は2362万3923円となる。原告X1に対する労働者災害補償保険法60条、64条による遺族補償年金前払一時金の最高限度額は1929万7000円であり(そのうち、310万2957円は既に支給を受けたと認められる)、これは損益相殺として原告X1に生じた損害額から控除すべきである。結局、原告X1は、Yに対し、472万6923円を請求することができ、原告X2は、被告に対し、2362万3923円を請求することができることになる。

(3)控 訴

 当判決を受け、Xら及びYは、共に判決内容を不服として、控訴することになります。

メンタル休職と職場復帰に関する調査結果

 今週の日経紙電子版に「うつ病などの精神疾患により休職した社員の職場復帰」に関して次のような記事が掲載されていました。

 「うつ病などメンタルヘルスの不調で会社を休職した社員の42.3%が、休職制度の利用中や職場復帰後に退職しているとの調査結果を、独立行政法人『労働政策研究・研修機構』(東京・練馬)が18日までにまとめた。休職できる期間が短く治療が十分でないことや、復職後の支援体制が不十分なことが退職の背景にあるとみられる。 

 調査は2012年11月に実施。メンタルヘルスやがん、脳疾患、糖尿病などによる病気について、休職制度の有無や期間、退職・復職の状況などを尋ねた。5904社が回答した。調査結果によると、過去3年間にメンタル不調を理由に休職制度を利用した社員の退職率は、全疾病平均の37.8%を4.5ポイント上回った。

 最も高いのはがんの42.7%だが、がんによる休職は50代以上の割合が高く、定年など病気以外の理由による退職も多数含まれているとみられる。同機構の奥田栄二主任調査員補佐は『メンタル不調は30代以下の割合が高いため、病気を直接の原因とする退職率はメンタル不調が最も高いと考えられる』としている。」

 この記事からは退職するに至った42.3%の社員の内訳が判別できませんが、出典は平成25年11月29日付けの労働政策研究・研修機構「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」で、この数字は非正規社員を含んだ数字のようです。正社員に関しては、7割の社員が少なくとも退職を免れている(「休職を経て通院治療をしながら働き続けている」、「休職を経て通院治療をせずに働き続けている」、「休職をせずに通院治療等をしながら働き続けている」、又は「長期の休職または休職、復職を繰り返している」)ようです。

 この調査は、企業における労働者の治療(私傷病も含む)のための勤務条件・制度の導入状況、相談体制等の支援状況、労働者の職場復帰状況等を把握する目的で実施されたものですが、実施時期が平成24年11月後半ということですから、実施されて1年以上も経過していることになります。調査方法は、郵送による調査票の配布及び回収により、常用労働者50人以上を雇用している全国の民間企業20000 社(農林漁業・公務除く)を対象に、産業・規模別に層化無作為抽出で行われました。有効回収数は、5904 件(有効回収率:29.5%)だったとのことです。

 主な調査結果は、以下の通りです。

1.通常の年次有給休暇以外で、連続して1箇月以上、従業員が私傷病時に利用できる休職制度がある:91.9%、そのうち、就業規則等の規定状況は、「規定されている」が77.7%、「規定されていない」は9.7%でした。

 病気休職制度の非正規社員への適用状況は、「非正規社員には適用されない」が48.5%ともっとも高く、「すべての非正規社員に適用される」が31.1%、「一部に適用されている者がいる」が14.5%でした。

2.現在(調査時点)の病気休職制度を利用した休職者人数の平均値は0.74 人。分布をみると、「0人」が63.2%と割合がもっとも高く、次いで「1人」が16.5%、「2人」が6.4%でした。

 「1人以上計」(休職者がいる企業)は28.4%。疾病別の内訳人数をみると、平均値は、「メンタルヘルス」(0.37人)が最も高く、次いで、「その他の身体疾患」(0.18人)、「がん」(0.09人)。過去3年間でみると、病気休職制度の休職者人数(新規利用人数)は、平均値が2.88 人であり、休職者1人以上の割合は52.0%でした。

3.継続就業のパターンでは、正社員の場合、「休職期間中(もしくは復職直後)に退職している」、「休職を経て復職後、しばらく勤務した後に退職している」、「休職をせずに退職している」の合計の割合は、「メンタルヘルス」が27.0%でもっとも高くなりました。「休職をせずに退職している」割合は「難病」が最も高く、次いで「脳血管疾患」、「B型肝炎もしくはC型肝炎」などとなっています。一方、非正規社員の場合、「休職期間中(もしくは復職直後)に退職している」、「休職を経て復職後、しばらく勤務した後に退職している」、「休職をせずに退職している」の合計の割合は、やはり「メンタルヘルス」が46.0%で非常に高くなっています。正社員と非正規社員を比較すると、「休職をせずに退職している」割合は、いずれの疾病でも正社員に比べ非正社員のほうが高くなっています。

4.今後3年間程度でみた疾病への対策を経営・労務管理上の重要課題と考えるかについては、「重要」(「最重要課題」、「どちらかといえば重要課題」の合計)とする割合が「メンタルヘルス」で72.2%と最も高くなっており、次いで「糖尿病・高血圧等の生活習慣病」、「がん」、「心疾患」などとなっています。

 メンタルヘルスや私傷病の治療と仕事を両立させるための課題でもっとも多かったのは、「休職者の復帰後の仕事の与え方、配置」で55.6%、次いで、「代替要員の確保が困難」、「再発防止」、「休業期間中の給与の保障が困難」などでした。

201402_浅草探梅_IMG_0164

職場における喫煙規制の根拠

 今日一般事務所を含む人が多く集まる場所での喫煙は、ご法度というのが一般的になりました。事務所における禁煙又は分煙が一般的になり、職場において堂々と喫煙が許される場面は、今や古い映画の中でしか見られない光景です。この職場における禁煙の根拠としては、社会規範の変化とともに一体どのような法律が存在しているのでしょうか?


1.WHOたばこ規制枠組条約の批准

 世界保健機関(WHO)は、法的拘束力のある国際条約でたばこに関する規制を行うこととし、平成17年2月に「たばこ規制枠組条約」が発効しています。我が国もこの条約の締約国であり、たばこに関する規制を行う義務を負っています。

第8条 たばこの煙にさらされることからの保護
(1)締約国は、たばこの煙にさらされることが死亡、疾病及び障害を引き起こすことが科学的証拠により明白に証明されていることを認識する。
(2)締約国は、屋内の職場、公共の輸送機関、屋内の公共の場所及び適当な場合には他の公共の場所におけるたばこの煙にさらされることからの保護を定める効果的な立法上、執行上、行政上又は他の措置を国内法によって決定された既存の国の権限の範囲内で採択し及び実施し、並びに権限のある他の当局による当該措置の採択及び実施を積極的に促進する。

 WHOたばこ規制枠組条約第8条履行のためのガイドライン
 (平成19年7月採択)
(1)100%禁煙以外の措置(換気、喫煙区域の使用)は、不完全である
(2)すべての屋内の職場、屋内の公共の場及び公共交通機関は禁煙とすべきである


2.国内法の整備

 国内における職場の受動喫煙防止対策については、平成4年以降、労働安全衛生法に定められた快適職場形成の一環として事業者を指導することになっています。これは労働法的な視点からの使用者に課せられると考えられている「安全配慮義務」又は「職場環境配慮義務」から来るもので、平成19年3月1日に施行された労働契約法にも使用者の安全配慮義務が第5条に明文化されています。

 これらの労働者を保護の対象とした法律のほかに、平成15年5月1日に施行された健康増進法があります。この法律では、「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。」(第25条)と規程しています。この規程に罰則はありませんが、平成22年2月には、多くの人が利用する公共的な空間では、全面禁煙であるべきとの健康局長通知が既に出されています。

 今後の方向性としては、平成22年12月22日、厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会から、今後の職場における安全衛生対策について提言され、その一項目として、職場における受動喫煙防止対策の方向性が示されています。

 労働政策審議会の報告によれば、次のような提言がなされています。また、これらの提言を踏まえた安全衛生法改正案が一昨年12月の臨時国会に提出されましたが、議決に至らないまま、昨年12月の衆議院解散により一旦廃案になっています。

 (1)一般の事務所、工場等については、全面禁煙や空間分煙とすることを事業者の義務とすることが適当
 (2)飲食店等の顧客が喫煙できることをサービスに含めて提供している場所についても、同様の措置を取ることが適当であるが、それが困難な場合には、当分の間、換気等により可能な限り労働者の受動喫煙の機会を低減させることを事業者の義務とすることが適当
 (3)国民のコンセンサスの形成に努め、できるだけ早期に新成長戦略の目標を達成できるよう取組を推進

2013_東京上野浅草周辺 007