定年年齢65歳の会社

 60歳を超えた社員のうち、希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入などを企業に義務付ける改正高年齢者雇用安定法が参院本会議で民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決、成立したのが、平成24年(2012年)8月29日のことでした。同改正法は翌年の平成25年(2013年)4月に施行されております。ここでいう65歳までの雇用安定措置ですが、(1)定年年齢の引上げ、(2)継続雇用制度(勤務延長制度及び再雇用制度)、又は(3)定年制度の廃止の3つの方法から選択することが認められています。このうち、(1)及び(3)は人件費の面から大企業や余程の高収益企業でなければ現実的ではないといわれ、現に再雇用などの継続雇用制度を導入した会社が8割から9割といわれていました。

 しかし、ここに来て構造的な要因ともいえる生産年齢人口の急減から、慢性的な人手不足常態が顕在化してきたからでしょうか、大企業を中心に(1)定年年齢の引上げを行う会社が散見されるようになってきています。9月6日の日本経済新聞電子版は、日本生命保険が2021年度から従業員約1万5000人を対象に定年を現状の60歳から65歳に引き上げることとし、8月末に労働組合に示したとを報じています。生保業界ではT&Dホールディングス傘下の太陽生命保険が本年4月からの65歳までの定年延長を決めています。また、明治安田生命保険も2019年度からの定年延長を決めていると伝えられています。

 製造業大手では、 日本ガイシが、全従業員の定年を65歳に引き上げる制度を導入したと正式に発表しています。従来は60歳で定年を迎えると、希望者のみを嘱託職員として再雇用してきましたが、8割以上が再雇用を選択することを踏まえて定年延長を決めたそうです。制度導入に合わせて60歳以降の給与体系も見直し、組合員については従来の再雇用では5~6割ほどに年収が下がっていたのを定年延長の導入により60歳以降も年収を維持できるようにします。また、管理職らについても定年延長の対象とし、給与については60歳時点での評価や役割などに応じて年収水準を決める仕組みになっています。

 本田技研も次のような抜本的ともいえる賃金制度の見直しを平成27年(2015年)に発表しています。

-ホンダは、定年を現状の60歳から65歳に引き上げる方針。現状の再雇用制度よりも給与の削減幅を緩やかにしてシニア社員の労働意欲を高める。ホンダの現制度では60歳で定年を迎えた後、定年時の50%の給与水準で最長5年間、再雇用している。新制度では定年時の平均80%の給与水準で、最長65歳まで定年時期を選べるようにする。

-現在の再雇用制度の利用者は全体の5~6割程度。新制度導入で60歳以上で働く人材が増える見通し。海外駐在なども可能にして職場の選択肢を増やす。国内出張の日当廃止などで総人件費は現行と同じ程度に抑える。

-家族手当も見直す。これまでは専業主婦を含む1人目の扶養家族に対して月1万6千円を支給し、2人目からは1人当たり4800円を増額していた。今後は家族手当を段階的になくす代わりに、18歳までの子どもの育児手当、扶養する要介護者への介護手当を新設する。1人当たり2万円ずつを上限なしで支給する考えだ。

 金融・サーヴィス業界でも、ファミリーレストラン最大手のすかいらーくは2015年9月、従業員の定年を60歳から65歳に延長することを決めています。野村証券は、4月から個人向け営業を担当する一部社員の定年を65歳に延長し、65歳到達後は最長70歳まで再雇用すること、大和ハウス工業とサントリーホールディングスも2013年に65歳定年制を導入したことなどが知られています。

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企業の倒産動向に人手不足の影

 ここ2、3年顕著になってきた生産年齢人口の急激な減少による労働市場の人手不足傾向ですが、これによって最近の企業の倒産動向にも変化の兆しがみられることを、16日の日本経済新聞電子版が伝えています。

 記事によれば、「2009年の中小企業金融円滑化法の施行を機に倒産は減少に転じ、同法終了後も企業の返済猶予申請に対して金融機関が柔軟に対応したため、倒産は減少が続いてきた。それが17年上半期の倒産は4247件となり、8年ぶりに前年同期を上回った。倒産をめぐる状況が変わりつつあるのではないか。タカタが6月26日東京地裁に民事再生法の適用を申請したため、上場企業の倒産が1年9カ月ぶりに発生。倒産のトレンドにも変化の兆しがみえる。」とのことです。

 一般消費者を対象にしたビジネスでの倒産で世間の耳目を集めることになったのが、3月27日に東京地裁に破産を申し立てた旅行会社、てるみくらぶ(東京・渋谷)のケースでした。また、エステサロン経営のグロワール・ブリエ東京(東京・港)が3月28日、結婚式場経営のBrillia(東京・渋谷)が3月8日、それぞれ東京地裁に自己破産を申請しています。旅行、エステ、結婚式場は、サービスの提供前に代金を受け取る「前受け金ビジネス」という点でも共通しています。

 業績拡大するなかで倒産する事例も目につくようになってきているようです。相次いで出店する一方で店長となる人材が確保できなかったほか、労働環境に不満を持つ従業員の退社もあったとされる倒産事例もあります。人手不足による倒産の増加はデータでも裏づけられ、2017年上半期は49件の人手不足倒産が発生していますが、これは4年前の2.9倍にあたり、人手不足が続くとみられる中、今後もさらに増加すると予想されます。業種別にみると、サービス業が全体の30.6%でトップで、次いで建設業となっています。

 経営者にとって、いかに良い人を採用して、会社に定着して働き続けてもらうか、「採用」と「教育研修」が絶対的に重要な時代に入りつつあるようです。

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労働法令違反企業名の公表

 この先週11日の日本経済新聞電子版が伝えた記事、「労働法令違反企業名公表 厚労省」というのがありました。電通事件が大きなきっかけになったのか、また、政府が進める働き方改革の一環なのでしょうか、ここのところ厚労省が次々と手を打ってきている感じがいたします。

 記事によれば、厚生労働省は、違法な長時間労働や労災につながる瑕疵(かし)、賃金不払いなど労働関係法令に違反した疑いで書類送検した334件に関し、関与した企業名を同省のホームページで公開、各労働局の発表内容を一覧表にして一括掲載したのは初めての試みとのことです。一覧表にまとめられたのは各地の労働局が昨年10月以降、法令違反で書類送検した企業名で、最も多かったのは愛知労働局の28件で大阪労働局の20件、福岡労働局の19件が続いています。

 また、一覧表には社員に違法な残業をさせた疑いで書類送検された電通やパナソニック、労災事故を報告しなかった疑いで書類送検された日本郵便など大企業も含まれています。企業経営者にとって、このような一覧表に社名を掲載されたときの負の宣伝効果は、全く洒落になりません。

労働基準関係法令違反に係る公表事案一覧表

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病院経営は危機的状況

 昨年12月、福島県双葉部広野町にある高野病院の院長が火事で亡くなるという痛ましい事故のことが主要な報道機関でもとり上げられました。高野病院は福島第一原発事故発生以来、地域で唯一の医療機関として地域のインフラとしての役割を担ってきたのです。その病院の院長が亡くなり、病院の存続が危機的な状況にあるとみられたため、大きな関心が寄せられたのです。しかし、原発事故という特殊な事情を抱えた高野病院に限らず、今日多くの地方都市の病院経営は、厳しい状況にあるようです。星槎大学客員教授の上昌広氏は、「加速する病院崩壊」(NHKラジオ)で次のように病院経営の問題を解説されておられます。

 まず、地方都市の病院ですが、全国の病院で医師は院長が一人で診ておられるような病院が全体の1割程度にのぼるとのことです。その原因は、主に2つ考えられ、ここ数年続いている診療報酬の引き下げと地方都市における人口減少に伴う患者数の減少です。こういった地方都市では、地域の重要なインフラの一つである医療機関を維持していくことが困難になってきているのです。

 しかし、人口が集積し、医者の数も十分な首都圏でも別な意味での病院経営の問題が生じているというのが上教授の指摘です。私立大学医学部付属の大学病院などの民間の病院で主に起こっている問題は、看護師などの人件費が高く、コスト高を全国一律の診療報酬でまかないきれず、赤字になる病院が増えているということです。また、消費税の引き上げは、消費税の支払いが持ち出しになる傾向が強い病院経営にとって痛手であり、そういった状況下で設備投資その他の経営判断を少し違えただけで、経営状況が厳しくなる病院が多いようです。経営に問題のある病院はコスト削減に走ることになりますが、首都圏では数の多い医師の人件費削減が行われるため、私大付属の大学病院で働く40台の勤務医の月給が手取りで30万円あるかないかといったところもあるそうです。首都圏では知らない者は皆無と思われる聖路加国際病院でさえ赤字に苦しんでいることにはまったく驚きました。

 こういった深刻な問題が病院経営で人知れず進行していたのですが、上教授が提示した解決策は、新技術の導入と海外からの看護師や医師の招聘によるコスト削減、及び医療費の負担増でした。海外からの人件費の安い看護師と医師を招聘することは今日どの先進国でも行われているといわれるのですが、このような発想にはまったく同意できません。途上国の医師や看護師を先進国が吸い取るということは、途上国の医療を後退させてその恩恵を吸い取るということを意味すると思うからです。もちろん、日本で働きたい、日本で技術を磨いて祖国の医療に貢献したいという途上国の人を受け入れるのは好いと思いますが、積極的に外国人労働者を安く使おうという発想で受け入れるのには断固反対です。日本は日本のやり方で、つまり、設備投資と技術開発によってコスト削減を実現し、経済成長することで医療費増加分を賄って行けるようにするのが目指すべき理想の姿というものです。

(追記)今朝の日経紙には、大手銀行による医療費抑制のこんな動きが掲載されておりました。
<三井住友銀行とみずほ銀行は地方自治体と組み、病気の予防事業などで抑制できた医療費の一部を配当として投資家に還元する取り組みを始める。公共的な課題に関心を持つ富裕層らの投資マネーを取り込み、社会保障関連の事業拡大につなげる。民間資金を公的サービスに回すソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)と呼ぶ仕組み。2010年に英国でスタートし欧米で普及している。>

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長時間労働に関する新聞記事

 安倍内閣は平成28年9月27日、第1回「働き方改革実現会議」を開催し、働き方改革の中身を示す課題として9項目を提示しました。その中で、第3番目に掲げられているのが、「長時間労働の是正」についてです。昨年後半に電通で起きた悲惨な事件がたびたび新聞テレビでとり上げられたことも手伝ってか、ここのところ、長時間労働に関する記事を頻繁に目にするようになりました。今年は、非正規雇用の待遇改善と並んで、長時間労働の是正が主要課題となると断定しても良いのではないでしょうか。

=== 日本経済新聞電子版 平成29年1月11日 ===

 厚生労働省神奈川労働局は11日、労使協定の上限を超える残業を研究職の社員にさせたとして、労働基準法違反の容疑で法人としての三菱電機と、同社の幹部を書類送検した。同社の情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市)の元社員の男性(31)が、過重労働が原因で精神疾患を発症。同労働局は違法残業の疑いがあるとみて捜査を進めていた。書類送検の対象となる幹部は元社員の当時の上司。元社員は昨年11月、藤沢労働基準監督署(同県藤沢市)から労災認定を受けた。

 元社員は大学院博士課程を修了し、2013年4月に三菱電機に入社。同研究所でAV(音響・映像)機器の部品開発などを担当していた。入社1年目の14年1月以降、業務量が大幅に増え、同年4月上旬ごろに適応障害を発症した。同労基署は月100時間以上の残業をさせられ、心理的負荷が強まったのが原因だとして労災認定した。

 神奈川労働局は元社員の入退室記録などを分析し、労使協定の上限を超えて残業をさせられていたことを確認。法人と当時の上司の書類送検に踏み切った。元社員は昨年11月、労災認定後に厚労省で記者会見し「上司から残業時間の過少申告を強要されていた」とも主張。14年2月は実際の残業が160時間だったのに59時間と申告したと説明した。一方、三菱電機は「過少申告はなかったと認識している」とした。

 大手企業の長時間労働問題を巡っては、東京労働局が新入女性社員が過労自殺した電通と当時の上司を昨年12月28日に労基法違反容疑で書類送検した。電通は同日、石井直社長が記者会見し、引責辞任すると表明。違法残業で立件された責任をとりトップが交代する事態に発展した。労働局や労基署による監督指導は、かつては建設現場の作業員や工場労働者などを守ることを重視して行われてきた。電通に続いて三菱電機も違法残業で書類送検されたことは、ホワイトカラー職場に監督の重点を移す厚労省の姿勢を反映しているとみられる。

=== 日本経済新聞電子版 平成29年1月12日 ===

 従業員が退社してから翌日の出社まで一定時間を空ける制度を導入する企業が増えている。KDDIなどに次ぎ、三井住友信託銀行が昨年12月から導入したほか、ユニ・チャームやいなげやも今年から採用する。制度が義務化されている欧州に比べ、日本での取り組みは遅れている。長時間労働の是正が経営の重要課題になるなか、政府も同制度の普及を後押しする考えで、今後追随する企業が増えそうだ。

 「勤務間インターバル制度」と呼ばれ、欧州連合(EU)は1990年代初頭から、加盟国に最低でも11時間の休息確保を義務づけている。一方で日本では法定労働時間に基づいて従業員の始業時刻を合わせるなど、画一的な働き方を求めてきたため、導入が遅れていた。厚生労働省によると勤務間インターバルを導入する企業は調査した約1700社のうちの2%にとどまっている。

 ユニ・チャームは5日から、社員約1500人に対して、残業をしても翌朝の出勤時間を遅らせるなどして8時間以上休息するよう義務づけた。勤怠データを基に、休息が取れていない社員には個別に上司が業務改善を促す。同時に深夜勤務を減らすため、1月から午後10時以降の残業を原則禁じることも決めた。大手スーパーのいなげやはパートを含めた約1万人の従業員を対象に、2017年中に10~12時間の休息を確保できるようにする。休息が確保できる勤務表しか作成できないようにシステムを変更する。人手不足のなかでの同制度の導入は人件費などがかさむ懸念はあるが「従業員の心身の健康を優先する」(いなげや)としている。三井住友信託銀行は16年12月に、退社から出社まで9時間以上空ける対象を嘱託を含む約1万4千人の全行員に広げた。従来は海外とのやり取りで残業時間が多い部署などで先行実施していたが、全社規模に広げて働き方改革を推し進める。

 6年前に同制度を採用した三菱重工業は「管理者を含め、できるだけ残業を減らすように社員の意識が変わってきた」という。同制度は翌日の出勤時間を遅らせることができるため、残業を助長するとの指摘もある。ノー残業デーといった様々な制度と組み合わせた取り組みが欠かせない。ホンダは残業しても翌日は仕事が終わってから12時間以上空けて出勤する制度を導入している。有給休暇の取得も徹底することで、従業員1人あたりの総労働時間が全国水準を下回り続けるなど、労働時間の削減につなげている。

 厚労省も制度導入に必要な労務管理用ソフトウエアの購入などにかかる費用の一部を助成する予定だ。社員の過重労働をいかに減らすかが問われるなか、働き方改革の一環としてインターバル制度を導入する動きは広がりそうだ。

=== 転載終わり (下線は浅草社労士) ===

20161112_華道@浅草公会堂