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時季指定義務化に伴う年休運用再考

1.有休の時季指定義務化の要点

 働き方改革関連法の一部は、本年4月1日より施行されることになっています。時間外労働時間の上限規制強化とともに年次有給休暇の時季指定義務化がその一つです。これは、すべて企業において、年10日以上の有休が付与される労働者に対し、当該年休のうちの5日については、使用者が時季を指定して取得させることが使用者の義務であるとする規定です(新労働基準法39条7項および8項)。具体的には、(1)使用者が労働者の意見を聴取した上で、時季を指定する、(2)労働者が自ら請求して取得する、(3)有給の計画的付与、の3つの方法のいずれかで労働者に年5日以上の有休を取得させることができれば、義務は達成されたということになります。

 使用者は、年休管理簿を整備し、各労働者ごとに(1)取得時季、(2)日数、(3)基準日(1年の起算日)が明らかになるようにしておくこと、また、この管理簿を3年間保存することが必要になります。


2.年休制度の見直し

 そこで、特に社員数が50人前後の中小企業など、多くの人数を管理部門の人員やシステムなどに割くことができにくい会社で、年休の管理を効率的かつ正確に行うための制度の見直しが必要になってくると思われます。浅草社労士が考えるのは以下の2点です。

(1)一つ目は、会社の休暇制度の見直しです。まず、通常の休日は、週休2日の会社であれば、土曜日と日曜日(業種によっては別の曜日)に加え、国民の祝日とすること。その他に慶弔に伴う特別休暇などはそのままで良いと思いますが、これまで、年休の取得が進まないために休暇取得促進策として創設したと思われる年休とは別枠の休暇等は、この機会に廃止も含めて再検討してもよいのではないかと思います。ただし、厚労省の通達に関連したQ&Aでは、「法定の年休とは別に設けられた特別休暇について、今回の改正を契機に廃止し、年休に振り替えることは法改正の趣旨に沿わないものであるとともに、労働者の合意なしに就業規則を変更することは、就業規則所の不利益変更法理に照らして合理的なものである必要がある。」となっております。夏季休暇の一部を特別休暇としている現行制度をすべて年休に置き換えるなどの措置は、従業員の合意を得て行う必要があります。

(2)二つ目は、年休の付与および取得状況等が一律に管理できる制度の標準化または単純化です。次のような大枠を決めて、簡潔な制度にしてはいかがでしょうか。
(イ)年休付与の基準日は、4月1日と10月1日の2回に限定します。
(ロ)4月1日入社から9月30日入社までのものは、すべて10月1日に10日間の年休が付与され、翌年の10月1日までに最低5日間の年休を取得します。そして、以後10月1日を基準日として年休の管理を行います。
(ハ)10月1日入社から翌年3月30日入社までのものは、すべて4月1日に10日間の年休が付与され、翌年の4月1日までに最低5日間の年休を取得します。そして、以後4月1日を基準日として年休の管理を行います。

 この変更は、例えば、現在各労働者の入社日を基準日として労基法通りの管理を行っている方式であれば、二つの基準日の間に入社した従業員にとっては有利な変更ですので、問題にはなり得ませんし、年休付与に関して積極的であり、福利厚生面で若干のアピールができます。もちろん、この方式にする本来の目的は、年休の付与日、したがって1年の基準日を年間2回に絞ることができるということです。


3.罰則など

 年休に関する罰則は次のようになるようです。また、使用者が有休の時季指定を行う場合には、休暇に関する事項が就業規則の絶対的記載事項であることから、就業規則への記載が必要になってくるという考え方があるようです。

(1)年5日の年休を取得させていない(労基法39条7項) → 30万円以下の罰金
(2)使用者が有休の時季指定を行う場合には、就業規則に規定していない(労基法89条) → 30万円以下の罰金
(3)労働者が請求する時季に所定の有休を使用者が拒否して与えない(労基法39条) → 6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金
(出典:社労士TOKYO2月号 18頁)

 修業規則規定例
 10日以上の年次有給休暇を付与された労働者に対しては、付与日から1年以内に、当該労働者が有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が当該労働者の意見を聴取した上で、予め時季を指定して取得させることができる。ただし、当該労働者が年次有給休暇を当該期間中に既に取得している場合においては、その日数分を5日から控除する。

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定額残業手当制の留意点

 現状でも定額残業手当制を採用している会社が相当数あり、時間外の上限規制がこの4月から強化されることで、新たに導入する会社も増えるのではないかと予想されます。東京都社労士会の会報2月号でも、「定額残業制の導入及び運用上の留意点」というテーマで論稿が掲載されておりました。論稿の要旨を整理しておきます。


1.定額残業手当制に関する最高裁判決

 事件の名前くらいは憶えておきたい定額残業代が争点となった最高裁判決が簡潔に説明されていますので、参考になります。

(1)テックジャパン事件(最判平成24.3.8労判1060.5)
 平成6年の高知観光事件最高裁判決を踏襲し、基本給中の通常の労働時間の賃金部分(算定基礎部分)と割増賃金部分とが判別できることが必要である旨を述べ、同事件ではかかる判別ができないとして、基本給に定額残業代が含まれるとは認められないとしました。

(2)医療法人社団康心会事件(最判平成29.7.7労判1168.49)
 組込み型の定額残業手当制自体が直ちに労基法37条違反になるものではない、また、定額残業代の金額が労基法37条に基づく所定の方法で算定された割増賃金額を下回るときは、使用者はその差額を支払う義務(差額支払)を負う旨について判示しました。

(3)日本ケミカル事件(最判平成30.7.19労判2358.3)
 雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われているか否かは、(イ)雇用契約にかかる契約書等への記載内容のほか、(ロ)使用者の労働者に対する手当や割増賃金に関する説明の内容、(ハ)労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきであるとし、会社側の業務手当は時間外労働等に対する対価であるという主張を認める判決を下しました。この事件の原審では、差額支払の合意ないし実績があること、基本給と定額残業代の適切な均衡が認められること、労働者の長時間労働による健康状態悪化防止措置の存在など厳しい要件を備えた場合に固定残業手当制を認めるという立場が示されましたが、このような解釈は上告審で否定された形になっています。


2.定額残業手当制の有効要件

 これまでに積み重ねられてきた最高裁判例を踏まえて、定額残業手当制が有効とみなされるための要件は次の2つと結論付けられます。

(1)基本給等の通常の労働に対する賃金部分(算定基礎)と定額残業代部分とが明確に判別できること。したがって、定額残業代の金額の明示が最低限必要になってくると考えられます。

(2)定額残業代が、時間外労働等に対する対価としての実質を備えていること。具体的には、日本ケミカル事件判決における(イ)雇用契約にかかる契約書等への記載内容のほか、(ロ)使用者の労働者に対する手当や割増賃金に関する説明の内容、(ハ)労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情、が挙げられます。

 以上の2点を満たしていれば、差額支払の合意やその実績は、必ずしも有効要件として必須のものとは考えられません。また、定額残業代が時間外労働等の何時間分相当かの時間数を明記することも、必須の要件ではないと解されています(わかりやすさの観点から、時間数を明記するのがより好ましいことはいうまでもありません)。


3.定額残業手当制の導入時の留意点

 そもそも定額残業代が通常の時間外労働を守備範囲にするだけのものなのか、あるいは、休日労働または深夜労働も対象にしているのか、当初から明確にしておくべきです。それぞれの割増率が異なるため、混乱をきたしそうなところですが、通常の時間外労働、深夜労働、休日労働の順番で、すべて組み入れ可能としておく方が使い勝手がよいかもしれません。

 金額の決定及び明示については、賃金規程で定額残業代を支給する旨を定めた上で、定額残業代の金額について各自雇用契約書等で定めるとするのが妥当と思われます。

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働き方改革関連法の要点整理

 第169回通常国会の最重要法案と位置付けられていた働き方改革関連法は、本年6月29日午前の参院本会議で可決、成立しました。現在は、法律が施行される来年4月に向けて、準備が進められています。社会保険労務士会の会報でも、今月号から働き方改革関連法の課題の整理を行うシリーズの論稿が掲載されたおりましたので、これを材料にまとめ記事を作っておきたいと思いたちました。

 働き方改革関連法の中で特に重要なのは、次の3点に絞られてきます。
1.労働基準法:時間外労働の上限規制の改正 2019年4月1日施行、中小企業は1年遅れ(註)
2.労働安全衛生法の改正
3.短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(「パート労働法」)・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(「労働者派遣法」)の改正による正規社員と非正規社員都の公正な待遇の確保 2020年4月1日施行、中小企業は1年遅れ
(註)ただし、月60時間超の時間外労働に50%の割増賃金の中小企業に対してとられていた猶予措置は2023年3月末で廃止される。

1.労働基準法:時間外労働の上限規制の改正

 これまで、時間外労働の上限規制および36協定の特別条項は、労働基準法自体に直接の規定はなく、36条2項に基づき制定された告示によるものでしたが、今回36条が改正されて、36協定による時間外労働の上限について、条文の中に明記されることになりました(2項から6項、10項、11項が新たに追加され、現2項から4項は7項から9項に移動)。

(1)2項:36協定で定めるべき事項の列記
(2)3項:通常予見される時間外労働の範囲内において限度時間を超えない時間が時間外労働の上限
(3)4項:限度時間の上限1箇月45時間、1年間360時間(1年単位変形労働時間制1箇月42時間、320時間)
(4)5項:特別条項 3項の例外として1箇月100時間未満(休日労働を含む)、1年720時間(休日労働を含まない) 1箇月の限度時間を超える月数を6箇月以内とする。
(5)6項:時間外労働の絶対的上限:1箇月100時間未満(休日労働を含む)、2から6箇月の複数月の平均で80時間以下(休日労働を含む)

(6)新たな技術、商品または役務の研究開発に係る業務には、3項、4項、5項ならびに6項2号および3号を適用しない。医師、建設、運輸関連業務で、2024年3月まで適用猶予、運輸は適用後も960時間

(7)32条の3 1項2号フレックスタイムの清算期間を3箇月に拡大

3.高度プロフェッショナル制度

 従来型の労働時間規制に上手く当てはまらない業務に対応した現行制度は、裁量労働制など労働時間のみなし制度でした。これに対して、労働時間に対する規制そのものを取り払うのが高度プロフェッショナル制度です。

 高度プロフェッショナル制度が適用される労働者には、その効果として労働基準法第4章で規定される労働時間、休憩、休日および深夜割増に関する規定が適用除外となります。年休に関する規定は適用されますが、深夜割増の規定が適用されない点は、管理監督者以上に時間に依存した規制が緩和されていることを意味します。

 高度プロフェッショナル制度の対象業務は、「高度の専門知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務」です(労働基準法41条の2第1項1号)。具体的には、(1)金融商品の開発業務、(2)金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務などが挙げられています。

 導入の要件は、適用対象が恣意的に拡げられることを防止する観点から、以下の通り非常に制限的になっています。
(1)労使委員会(賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会)の5分の4以上の多数の議決により法所定の事項について決議し、当該決議を労働基準監督署長に届け出ること。
(2)対象労働者から、職務記述書等に署名する形で職務の内容および制度適用について同意を得ること。
(3)年間給与額が1075万円以上の金額であること。
(4)対象労働者が事業場にいた時間と事業場外において労働した時間を把握する措置を、決議で定めるところにより使用者が講じること。
(5)1年間を通じて104時間以上、かつ、4週間を通じて4日以上の休日を当該決議および就業規則等で定めるところにより与えること。
(6)勤務間インターバル措置かつ深夜労働の回数制限、1年に1度以上の2週間連続休日の確保措置、臨時の健康診断などの中からいずれかを講じること。

4.同一労働同一賃金

 少々わかりにくい点ですが、「同一労働同一賃金」とは、同一労働に対して同一の賃金を支払うという意味ではなく、正社員と非正規社員との間に労働条件の不合理な格差を設けてはならないという意味に定義しています。この「同一労働同一賃金」に関連して、以下の点が改正されます。

(1)パート労働法が、パート・有期労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)に改変されました。
(2)労働契約法20条(有期雇用労働者の処遇)が削除され、正社員と同視すべきパートタイム労働者に適用されていた「均等待遇規定」は、有期雇用労働者にも適用されるようになりました(大企業2020年4月1日施行、中小企業は1年遅れ施行)。

 今回の「同一労働同一賃金」関連の法改正にいたる非正規社員の雇用安定および処遇の改善に関する立法措置を歴史的に振り返ると以下のようになります。

(1)2007年 パート労働法改正
 正社員と同視すべきパート労働者を、パート労働者であることを理由として差別してはならないという趣旨の「均等待遇規定」が導入されました。また、賃金の決定や教育訓練等において、就業実態に応じて正社員と均衡のとれた待遇を確保するよう努める「均衡待遇規定」努力義務ですが、導入されました。

(2)2012年 労働契約法20条
 有期雇用労働者と無期雇用契約者との間の待遇の相違は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して不合理と認められるものであってはならないという規定が導入されました。

(3)パート・有期労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)8条
 「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる総意を設けてはならない」と条文で定められました。

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休職者が復職する際の留意点

 今日、休職制度を就業規則で就業規則で規定している会社も多いのではないかと考えられます。そして、休職中の従業員の症状が回復してきた際、当然復職ということが問題になってきます。その際の留意点としては、以下のようなことが考えられます。
<参 考>15分でわかる職場復帰

1.本人の自覚的な目安として
(1)仕事のできる心身の状態に回復しているのか。
(2)一人で安全に通勤することができるのか。
(3)決まった勤務日と時間に継続して就労することができるのか。
(4)業務に必要な作業ができるのか。

2.関係者の判断
(1)主治医の許可
(2)上司である管理職の判断
(3)産業医の判断

3.特別な配慮等の要否
(1)継続した治療が必要な場合、通院時間の確保
(2)配置換えの要否
(3)短時間勤務・時差出勤の有無
(4)職場のフォローアップ体制の確認
(5)再発した際の休職制度等諸制度の適用の確認

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年休取得の時季指定義務化

 働き方改革関連法は、本年6月29日に国会で既に可決・成立していますが、この法律によって、平成31年4月、つまり、来年2019年の春から、すべての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数の中で年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務化されました。


1.対象となる労働者

 年10日以上の年次有給休暇が付与される者です。
(1)入社後6箇月が経過している正社員またはフルタイムの契約社員

 そして、パートタイマーなど1週間の所定労働日数が週4日以下の社員の場合は、比例付与方式により、次のようになります。
(2)入社後3年半以上経過している週4日出勤のパートタイマー
(3)入社後5年半以上経過している週3日出勤のパートタイマー


2.基準日と指定義務

 従業員ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に有給休暇消化日数が5日未満の者に対して、使用者が取得時季を指定して、有給休暇を取得させることが義務付けられています。ここでいう年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年間というのは、次のように、入社日の6箇月後から数えて1年ごとの以下の期間です。

入社日の6箇月後の日~入社日の1年6箇月後の日の前日の1年間
入社日の1年6箇月後の日~入社日の2年6箇月後の日の前日の1年間
入社日の2年6箇月後の日~入社日の3年6箇月後の日の前日の1年間
== 以下同じ ==

 時季指定義務の対象外となるケースは、(1)計画年休制度により、年5日以上の有給休暇を付与している、(2)従業員が既に年5日以上の有給休暇を取得している、というときです。

 従業員の人数が比較的少ない中小企業の場合、従業員ごとに消化日数が5日以上になっているかをチェックし、5日未満になってしまいそうな従業員について、会社が有給休暇取得日を指定する方法が考えられます。

 この場合、就業規則などで、「基準日から1年間の期間が終わる1箇月前までに有給休暇が5日未満の従業員について会社が有給休暇を指定する」などと定めて、実行していくことです。


3.有給休暇の義務化に違反した場合の罰則

 今回の法改正による義務に違反して、対象となる従業員に有給休暇の指定をしなかった場合は、30万円以下の罰金が科されることになっています。とはいえ、既に、有給休暇が付与されている従業員が普通に年5日以上の有給休暇を取得している企業にとっては、就業規則に所得状況把握と不足日数分の付与などに言及した条文を書き加える程度で済む話です。

 万が一、いまだに年休を取らないことが美徳と考えているような猛烈社員がいるような会社は、この際、それでは会社に罰金が科せられてしまうという殺し文句で、しっかりと休みが取れる企業風土を再構築する必要があります。

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