日本郵便正社員との格差に判決

 同一労働同一賃金に関連した東京地裁判決が報じられておりました。被告は民営化して間もない日本郵政です。同一労働同一賃金の訴えの根拠になる法律は、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止した労働契約法20条ならびにパートタイム労働法8条および9条あたりになるかと思います。

 前者は、「労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と規定しております。また、改正法が平成27年4月1日施行された後者も8条で「当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と同様の規定しており、9条では「職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。」と定めています。今後は、これらの条文をめぐって、より厳格な解釈が行われる傾向がみられるかもしれません。
(参 考)多様化する雇用形態と雇用管理


 平成29年9月14日の主要メディア各社は、「日本郵便の郵便配達などに従事する時給制の契約社員(日本郵便の非正規労働者は約19万人)の男性3人が正社員と同じ仕事をしているのに手当などに格差があるのは違法だとして、日本郵便に計約1500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が14日、東京地裁であった。春名茂裁判長は訴えの一部を認め、住居手当や有給の病気休暇がないことなどは不合理な労働条件の相違に当たると判断、日本郵便に計約92万円の賠償を命じた。」と伝えています。同記事の要旨は以下の通りです。

-仕事内容は同じなのに正社員と労働条件が異なるのは、不合理な格差を禁じた労働契約法に違反するとして、日本郵便(東京都千代田区)の契約社員3人が同社に約1500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が14日、東京地裁であった。春名茂裁判長は、住居手当など一部の格差を不当と認め、同社に約92万円を支払うよう命じた。

-労働契約法違反を認定したのは、年末年始勤務手当や、転居を伴う異動のない正社員に支給される住居手当。春名裁判長は「契約社員に全く支払われないのは不合理だ」と述べ、年末年始手当は正社員の8割、住居手当は6割を損害額と認めた。夏期・冬期休暇と病気を理由とした有給休暇についても「契約社員にだけ付与しない合理的な理由は見当たらない」と述べ、不当と判断した。

-夏期・年末の賞与などは「人事上の施策として一定の合理性がある」として請求を退けた。同一の労働条件適用を求めた地位確認請求も認めなかった。

-同社の正社員には将来昇任していく「地域基幹職」と、原則として転居のない「一般職」がある。同社は地域基幹職も含めて業務内容を比べ「長期間働いてもらうために労働条件の差を設けるのは裁量の範囲内」と主張した。これに対し、春名裁判長は「正社員の中でも、担当業務や異動の範囲が契約社員と似ている一般職と労働条件を比べるのが相当」と判断した。

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今度はHuman Resource Technologyですか?

 平成29年8月23日付けの日本経済新聞電子版は、人事部が採用や労務に関する事務作業軽減のために、IT技術を使う顕著な動きがでてきていることについて、HRテック(Human Resource Technology???)と称して紹介記事を掲載しておりました。生産年齢人口の急速な減少傾向が顕在化してきた昨今は、慢性的な人手不足状態のようです。このような環境下、人事部における採用活動はこれまで以上に厳しい仕事になりつつあります。加えて、働き方改革が象徴するように、近年は働き方の多様化が進んで、労務に関する事務作業が複雑化する傾向にあるようです。そんな中、人事部の生産性向上のニーズが高まり、そのためのシステム投資もしっかりと行われるようになるのは、正しい流れと思われます。

 今回の記事で紹介されている会社は、以下のようなところです。

 パーソルHD:新卒・中途の採用支援システムで、サイボウズの情報共有支援ソフト「ガルーン」などと連携。企業の採用担当者は面接設定のたびに候補者と面接官の予定を調整し、会議室も予約するといった事務作業が多く、試算では月10人の内定候補者と面接を設定する作業だけで16時間かかるといわれている。新システムを使うと、これを半分以下にできる。初期費用込みで年120万円から提供し、2020年までに500社の導入をめざす。

 ビズリーチ(東京・渋谷):これまで求職者が転職サイトで入力した情報は、担当者が採用管理システムに入力し直す必要があった。同社のシステムを使うと、採用活動に進捗があったことを担当者がシステムに入力すれば、自動で同社の転職サイト側にも情報が反映される仕組み。

 ネオキャリア(東京・新宿):18年初めにクラウド上で人事情報を管理する企業向けシステムを刷新する。現在は採用、勤怠、労務を管理できるが、社員の経歴情報などを含む人事管理、給与計算、マイナンバーなども管理できるようになる。社会保険の申請作業に必要な時間を従来の10分の1にできるという。

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連合、「脱時間給」容認撤回を決定

 本日の日本経済新聞電子版は、労働組合を束ねている連合が27日午前、札幌市で中央執行委員会を開き、労働基準法改正案に盛る「脱時間給」制度を容認する方針の撤回を決めたことを報じています。傘下の産業別労働組合の強い反発があったためで、連合が政府、経団連との間で調整していた修正案の政労使合意は見送られることになりました。連合の神津里季生会長は、今月13日に安倍晋三首相と首相官邸で会談した際、年104日以上の休日取得を義務化するなどの法案修正を要請した上で、条件付きの容認に傾いていましたが、傘下の産別組織から想定を超す反発の声が上がり、組織をまとめきれないとの判断が働いたとのことです。

 いわゆる「残業代ゼロ制度」は、残業時間上限月間60時間を定める一連の働き方改革の柱の一つである長時間労働の是正とは相反する可能性をはらんだ仕組みなわけですから、労働組合がこれに原則反対の立場をとるのは当然のことともいえます。労働基準法改正案に盛られる「残業代ゼロ制度」は、「高度プロフェッショナル制度」とも呼ばれ、年収や職種など一定の要件を満たす人を労働基準法による労働時間規制から外す仕組みです。年収要件は、労働基準法に基づく厚労省告示で、年収1075万円以上などとするとされており、当面この要件に該当する者は限定的ですが、漸進的に要件が緩和されるのではないかという懸念が残り、危惧されているのだと思われます。また、最近の政治情勢の流動化も今回の連合の撤回決定に微妙に影響を与えた可能性も考えられます。

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定額残業手当などの問題整理

 タクシー業界などの時間外手・深夜労働に対する割増賃金の支払い方法は、問題になることがあるようです。東京都社労士会会報7月号の労働判例解説は、国際自動車事件(最高裁第3小法廷判決 平成29年2月28日)を取り上げておりました。この事案では、労働基準法37条の趣旨、割増賃金の算定・支払方法が明示的に判示された点が注目されています。解説を読んだ浅草社労士も、固定残業手当など、変則的な割増賃金の支払いをしている場合の考え方について明確な指針になる判決だったと思い、要点整理をしておくことにしました。しかし、国際自動車の割増賃金及び歩合給を計算する方法というのは、何だかよく分からないものでした。最高裁の判断は、高裁差戻し判決ですので、下記に述べるような基準で違法かどうか高裁で再検討されることになるのでしょう。


(1)労働基準法37条は算定方法まで縛ってはいない

 労働基準法37条とそれを受けた施行規則19条1項は、割増賃金の算定・支払方法について定めていますが、必ずしも法定の算定方法により割増賃金を算出することが義務付けているわけではないと解釈されています。例えば、営業手当を固定残業手当として支払っているとか、基本給、歩合給などの中に割増賃金を含むといったやり方であっても、今回の最高裁判決によれば、必ずしも37条に抵触することにはなりません。判決文によれば、「労働基準法37条等に定められた算定方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金お定めを労働基準法37条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない」 といっています。


(2)変則的な割増賃金の支払いをしている場合の合法性判断基準

 営業手当を固定残業手当として支払っているとか、基本給、歩合給などの中に割増賃金を含むといった変則的な方法を採っている場合、労働基準法37条等の算定方法による額以上の割増賃金が支払われているか否かの判断が重要で、その点についても今回の最高裁判決で、「労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算出した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであ」ると明示的に述べられています。

 そして、「上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算出した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負う」とも述べています。また、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かの裁判所における判断は、仄聞するにより厳しいものになってきているということのようですので、注意が必要です。

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条  使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2  前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3  使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
4  使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
5  第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。


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HISを違法残業の疑いで書類送検

 政府の働き方改革実現会議の初会合が開催されたのが、昨年9月27日のことでした。政府が働き方改革の方針を明確に打ち出したのを受けて、今年は働き方改革の元年ともいえる年になりました。大企業の労働基準法違反を伝える記事も昨今目につきます。初会合の席で有識者議員から議論されるべき課題として提案された9項目の第3番目、「長時間労働の是正」については、労働者の疾病を引き起こしたり、自殺に至る場合も報告されるなど、喫緊の課題といえます。一方で、欧米社会などで歴史的に普通に見られたような奴隷制度が存在しなかった我が国では、労働を尊いものとする伝統があり、まだまだ仕事が好きだから長時間労働をしているという風潮や氣質も残っていて問題はなかなか複雑です。絶え間ない業務の改善と必要な設備投資をすることで、業務の効率化を図ってゆくことが解決策の一つではないかと嘯くだけならば簡単なことなのですが...。

 6月14日の日経電子版によれば、東京労働局は大手旅行業のHISとその労務管理を行っていた幹部を2人の社員に労使協定の上限を超える時間外労働をさせていたとして書類送検したとのことです。 送検容疑は40代の女性社員に2015年8~9月、20代の女性社員には同年6~7月に労使協定の上限を超える違法な時間外労働をさせた疑いです。40代の女性の時間外労働は最長で1月あたり109時間30分、東京労働局は昨年3月に任意で立ち入り調査を行い、同年7月に強制捜査に切り替えて労務管理に関する資料を分析してきました。

 また、HISは2010~14年度の5年間に違法な時間外労働で合計10回以上の是正勧告を労働基準監督署から受けており、1つの事業所で10人以上の社員が100時間を超える時間外労働に従事していた事案もあったようです。

 旅行会社というのはどうも労働集約的体質の業界のようで、しかも夏休みなど季節的に繁忙期がやってくることが容易に想像できます。大手のHISといえども、1月100時間を超える残業が常態化して、労働局から監視対象になっていたようです。

20170511_高知旅行@往路