連合、「脱時間給」容認撤回を決定

 本日の日本経済新聞電子版は、労働組合を束ねている連合が27日午前、札幌市で中央執行委員会を開き、労働基準法改正案に盛る「脱時間給」制度を容認する方針の撤回を決めたことを報じています。傘下の産業別労働組合の強い反発があったためで、連合が政府、経団連との間で調整していた修正案の政労使合意は見送られることになりました。連合の神津里季生会長は、今月13日に安倍晋三首相と首相官邸で会談した際、年104日以上の休日取得を義務化するなどの法案修正を要請した上で、条件付きの容認に傾いていましたが、傘下の産別組織から想定を超す反発の声が上がり、組織をまとめきれないとの判断が働いたとのことです。

 いわゆる「残業代ゼロ制度」は、残業時間上限月間60時間を定める一連の働き方改革の柱の一つである長時間労働の是正とは相反する可能性をはらんだ仕組みなわけですから、労働組合がこれに原則反対の立場をとるのは当然のことともいえます。労働基準法改正案に盛られる「残業代ゼロ制度」は、「高度プロフェッショナル制度」とも呼ばれ、年収や職種など一定の要件を満たす人を労働基準法による労働時間規制から外す仕組みです。年収要件は、労働基準法に基づく厚労省告示で、年収1075万円以上などとするとされており、当面この要件に該当する者は限定的ですが、漸進的に要件が緩和されるのではないかという懸念が残り、危惧されているのだと思われます。また、最近の政治情勢の流動化も今回の連合の撤回決定に微妙に影響を与えた可能性も考えられます。

20170512_高知旅行@高知城



定額残業手当などの問題整理

 タクシー業界などの時間外手・深夜労働に対する割増賃金の支払い方法は、問題になることがあるようです。東京都社労士会会報7月号の労働判例解説は、国際自動車事件(最高裁第3小法廷判決 平成29年2月28日)を取り上げておりました。この事案では、労働基準法37条の趣旨、割増賃金の算定・支払方法が明示的に判示された点が注目されています。解説を読んだ浅草社労士も、固定残業手当など、変則的な割増賃金の支払いをしている場合の考え方について明確な指針になる判決だったと思い、要点整理をしておくことにしました。しかし、国際自動車の割増賃金及び歩合給を計算する方法というのは、何だかよく分からないものでした。最高裁の判断は、高裁差戻し判決ですので、下記に述べるような基準で違法かどうか高裁で再検討されることになるのでしょう。


(1)労働基準法37条は算定方法まで縛ってはいない

 労働基準法37条とそれを受けた施行規則19条1項は、割増賃金の算定・支払方法について定めていますが、必ずしも法定の算定方法により割増賃金を算出することが義務付けているわけではないと解釈されています。例えば、営業手当を固定残業手当として支払っているとか、基本給、歩合給などの中に割増賃金を含むといったやり方であっても、今回の最高裁判決によれば、必ずしも37条に抵触することにはなりません。判決文によれば、「労働基準法37条等に定められた算定方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金お定めを労働基準法37条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない」 といっています。


(2)変則的な割増賃金の支払いをしている場合の合法性判断基準

 営業手当を固定残業手当として支払っているとか、基本給、歩合給などの中に割増賃金を含むといった変則的な方法を採っている場合、労働基準法37条等の算定方法による額以上の割増賃金が支払われているか否かの判断が重要で、その点についても今回の最高裁判決で、「労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算出した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであ」ると明示的に述べられています。

 そして、「上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算出した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負う」とも述べています。また、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かの裁判所における判断は、仄聞するにより厳しいものになってきているということのようですので、注意が必要です。

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条  使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2  前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3  使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
4  使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
5  第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。


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HISを違法残業の疑いで書類送検

 政府の働き方改革実現会議の初会合が開催されたのが、昨年9月27日のことでした。政府が働き方改革の方針を明確に打ち出したのを受けて、今年は働き方改革の元年ともいえる年になりました。大企業の労働基準法違反を伝える記事も昨今目につきます。初会合の席で有識者議員から議論されるべき課題として提案された9項目の第3番目、「長時間労働の是正」については、労働者の疾病を引き起こしたり、自殺に至る場合も報告されるなど、喫緊の課題といえます。一方で、欧米社会などで歴史的に普通に見られたような奴隷制度が存在しなかった我が国では、労働を尊いものとする伝統があり、まだまだ仕事が好きだから長時間労働をしているという風潮や氣質も残っていて問題はなかなか複雑です。絶え間ない業務の改善と必要な設備投資をすることで、業務の効率化を図ってゆくことが解決策の一つではないかと嘯くだけならば簡単なことなのですが...。

 6月14日の日経電子版によれば、東京労働局は大手旅行業のHISとその労務管理を行っていた幹部を2人の社員に労使協定の上限を超える時間外労働をさせていたとして書類送検したとのことです。 送検容疑は40代の女性社員に2015年8~9月、20代の女性社員には同年6~7月に労使協定の上限を超える違法な時間外労働をさせた疑いです。40代の女性の時間外労働は最長で1月あたり109時間30分、東京労働局は昨年3月に任意で立ち入り調査を行い、同年7月に強制捜査に切り替えて労務管理に関する資料を分析してきました。

 また、HISは2010~14年度の5年間に違法な時間外労働で合計10回以上の是正勧告を労働基準監督署から受けており、1つの事業所で10人以上の社員が100時間を超える時間外労働に従事していた事案もあったようです。

 旅行会社というのはどうも労働集約的体質の業界のようで、しかも夏休みなど季節的に繁忙期がやってくることが容易に想像できます。大手のHISといえども、1月100時間を超える残業が常態化して、労働局から監視対象になっていたようです。

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残業時間公表を大企業に義務付け

 政府の働き方改革に呼応した厚生労働省の次の一手は、「大企業に残業時間の公表義務を課す」ということのようです。働き方改革実現会議の初回会合は、昨年9月27日に開催されておりますが、そこで提案された論点9項目の第3番目が、「時間外労働の上限規制のあり方など長時間労働の是正」でした。厚労省は、2020年にも従業員の残業時間の公表を大企業に義務付けることとしており、企業は月当たりの平均残業時間を年1回開示するよう求められ、従わなければ処分を受けるとのことです。

 新たな規制は労働法制では大企業とみなされる従業員数301人以上の約1万5千社が対象とされ、従業員300人以下の中小企業については罰則を伴わない「努力義務」にとどめる方向です。対象企業は厚労省が企業情報をまとめたデータベースや企業のホームページで年1回開示する。虚偽が疑われるような情報しか出さない企業にはまず行政指導を実施、悪質な場合には最大20万円のペナルティーを科す。正社員と非正規社員を分けるかどうかなど詳細な仕組みの議論を労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で来年から始めることになっています。

 厚労省では、残業時間を公表することで、企業が業界他社を互いに意識し合ったり、時間外労働を減らす新たな動機づけになったりすると見ています。また、学生が就職活動で企業を選ぶ際の判断基準になるとも期待しています。なるほど、大企業でも、ブラック度が外部に透け透けになってしまうというわけです。

 ただ、企業にとっては労務管理の事務が増えることになり、残業時間を他社と並べて相対的に比べられることへの心理的な抵抗感もあるため、労政審では経営側から慎重論も出されることが予想されます。従業員の平均値を年1回示すだけなので細かな労働実態をつかみにくい面もあり、経営者の理解を得ながら実効性ある仕組みをつくれるかどうか問われることになりそうです。

 また、こんなクオータ制のようなことまでやるのかというのが、厚労省は制度導入へ女性活躍推進法の改正を視野に入れてやっているという点です。同法の改正が残業時間の公表とどういう関係があるのかは今一つ不明ですが、採用時の男女別の競争倍率や月平均残業時間の公表などを求めていくということのようです。残業時間などについては公表を義務に切り替え、法改正が必要な場合、2019年の通常国会に関連法案を提出する方針とのことです。

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出張中の労働時間

 政府による働き方改革で労働時間の規制が俎上に上せられています。今後は今まで以上に厳格な労働時間管理が事業所に対して課されることも必然的になってくることでしょう。ところで、出張中の労働時間はどのように考えたらよいのでしょうか。出張先に移動している時間など、厳密に考えてみるとどう扱うべきなのか疑問が生じてくるところです。


1.出張中の移動時間

 通常の始業時間以後に出張先へ交通機関を利用して向かう行為は、当然労働時間に含められるということです。営業職が業務時間中に営業先に向かうのと同じことです。それでは、業務時間外に行った移動はどうなるのでしょうか。極端な場合は、日曜日に遠方の取引先などに移動して一泊し、翌日業務をこなすというようなことも想定されます。このような場合、移動時間を労働時間に含めるという学説もあるようですが、一般的な考え方は、通常の出勤のための通勤時間と同様若しくは類似の性質を有する時間とみなされ、労働時間に算入されないということです。もちろん、移動時間中の過ごし方の自由は確保されている必要があります。移動時間中に資料の作成等の業務を行う業務命令が出ている場合などは、当然業務時間に算入されなければなりません。


2.出張中の労働時間

 出張中は、事業場外での業務に従事しています。このため、通常は使用者の指揮監督が及んでいないとされます。従って、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に相当し、事業場外労働のみなし労働時間制の対象になると考えられます。事業場外労働のみなし労働時間制を適用する際に難しい点は、労働者の労働の実態をある程度は把握しつつ、指揮監督が及んでいると判断されるような厳密な管理が行われていてはならないことです。出張に関しては、時間の使い方は出張者に任されていることが一般的ですので、よほどの縛りがあらかじめかけられていない限り、事業場外労働のみなし労働時間制の適用が可能と思われます。

 事業場外労働のみなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務です。次のように事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はできません。
 ①何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
 ②無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合
 ③事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合

第三十八条の二  労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
2  前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
3  使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。


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