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兼業・副業の労働時間通算の問題

 日本経済新聞電子版によれば、政府の規制改革推進会議の答申案が6月5日に明らかになり、規制改革会議は本日中に安倍晋三首相に答申を提出します。答申の内容は、月内に閣議決定する規制改革実施計画に盛り込まれることになります。同答申案では兼業・副業の推進に向け、複数の企業で働く人の労働時間を通算する制度の見直しを提言すると伝えられています。
 
 労働基準法は複数の職場で働く人の労働時間は通算すると規定し、同法に基づき1948年には労働省(現厚生労働省)の局長通達で、複数の企業で働く人の労働時間の通算管理が定められています。現在、法定労働時間は1日8時間、週40時間なっています。本業で週30時間、副業で週15時間働く場合、5時間分が超過労働になります。割増賃金は副業側の企業が支払う必要があり、企業が副業を受け入れる際の足かせになっていると指摘されています。規制改革会議は仕事を掛け持ちする労働者を守る規制が働き方の選択肢を狭めていると判断。同答申案では「労働時間の把握、通算に関する現行制度の適切な見直し」を提言するとしています。検討されるのは、通算の労働時間と割増賃金の算出を切り離す制度の導入とされています。

 副業や兼業で労働時間が増えて過労死などが起きないよう歯止め策も求め、企業に従業員の健康確保を義務付けることになります。従業員が自己申告した総労働時間が一定時間を超えた場合、産業医による面接指導を実施することなどが検討されます。


 規制推進会議の答申案の要点は、次の通りです。

1.雇用
(1)限定正社員の雇用条件の明確化
(2)兼業・副業の労働時間通算制度の見直し
(3)介護休暇を時間単位で取得可能に

2.投資
後継者難企業への地銀の出資規制緩和

3.農業
農業用ドローンの飛行規制の緩和

4.教育
小中学校での遠隔教育の環境整備

5.医療
健診データの活用方針の明確化

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労働時間又は労働時間の状況の適正把握の問題

 新年度から段階的に施行されている「働き方改革」関連の法律、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)は、「働き方改革を推進する」という国の基本方針を立法化したものです。この法律の第4条では、国は、「各人が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就業することを促進するため、労働時間の短縮その他の労働条件の改善、多様な就業形態の普及及び雇用形態又は就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇を確保に関する施策を充実すること。」と定めています。なかでも、労働条件の改善と密接に関係している時間外労働の上限規制の罰則付き法定化は特に重要ですが、そもそも労働時間の把握が適切にできていることが大前提になっているお話です。加えて、事業主の安全配慮義務の視点からも、「労働時間の状況」が把握されていることが前提になることは、いうまでもありません。ここでは、社労士TOKYO5月号記事から、労働時間の把握の考え方について、その要旨をまとめてみました。


1.労基法上の労働時間適正把握に関する通達及び指針

 2016年1月の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の内容は、次のように整理されます。

(1)原則
 使用者は労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを把握すること。適正な把握の方法として、現認又はタイムカードなど客観的な記録によること。
(2)例外
 自己申告による場合、以下の措置を講じること。
(イ)労働者に対して、適正申告を行うよう十分に説明を行うこと。
(ロ)自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
(ハ)労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で、時間外労働の上限を設定するなどの措置は講じないこと。

 一方、管理監督者及びみなし労働時間制が適用される労働者については、労基法上、適法な導入・運用である限り、上記ガイドラインの適用除外とされています。


2.改正安衛法における「労働時間の状況」の把握義務

 改正安衛法では、長時間労働の医師面接指導に係る適用が拡大されました。その前提として、面接指導対象労働者の的確な把握が求められるようになりました。そこで、改正安衛法は、事業者に対して「労働時間の状況」を把握しなければならないこととしています。ここでいう「労働時間の状況」を把握の目的は、長時間労働の面接指導対象者の発見であり、労働者がどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握することとなります。つまり、安衛法の「労働時間の状況」は、労基法上の労働時間より、広い概念になるのです。施行規則によれば、「労働時間の状況」の把握の方法として、前述のガイドラインとほぼ同じようなことが記されておりますが、自己申告による方法は、あくまでも労働時間の状況を客観的に把握する手段がない場合、例えば事業場外みなしが適用されているときなどに限定的に認められるとしています。

 また、改正安衛法上の「労働時間の状況」の把握は、高度プロフェッショナル制適用対象者を除くすべての労働者が対象となるとされています。これには、管理監督者及びみなし労働時間制が適用される労働者にも適正で客観的な「労働時間の状況」把握が適用されることを意味し、相当に厳しすぎる規定になってしまっています。

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高年齢者雇用安定法改正案の骨子

 昨日15日は、政府により希望する高齢者が70歳まで働けるようにするための高年齢者雇用安定法改正案の骨格が発表されたことが話題になっておりました。改正案の骨格は15日の未来投資会議に提示され、改正案は来年の通常国会に提出される予定です。日経紙の記事によれば、「内閣府の試算によると、65~69歳の就業率が60~64歳と同水準になれば、就業者数は217万人増える。勤労所得は8.2兆円増加し、消費支出には4.1兆円のプラスだ。政府の調査では65~69歳の高齢者の65%は「仕事をしたい」と感じている。一方で実際にこの年齢層で就業している人の割合は46.6%にとどまる。」ということですから、生産年齢人口が急速に減少している(註)ことで人手不足が顕著な昨今の状況に対応した一つの答えになっています。

 希望する高齢者が70歳まで働けるようにするため企業がとる施策として提示されたのは、(1)定年延長(2)定年廃止(3)契約社員や嘱託などによる再雇用、これらは、65歳までの雇用を義務化した現行法で採られている方式です。これらに加え、(4)他企業への再就職支援(5)フリーランスで働くための資金提供(6)起業支援(7)NPO活動などへの資金提供、といった社外での就労機会を得られるように支援する方法も認められています。

 とはいえ、先日トヨタ自動車社長がもはや終身雇用制度を維持していくことは困難ととれる発言を行うなど、企業の人件費抑制の姿勢は、この人手不足の状況下でも顕著に変わってきたとは言えません。今回の施策も、政府が企業にお願いする形で実現した場合、高齢者の賃金は低い水準に抑えられ、さらに現役世代についても生涯賃金を急増させない水準が意識されて賃金制度が改められる事態を呼び込む恐れもあります。政府が、65歳~70歳の雇用については、当初努力義務での運用を始めるとしているのもうなづけます。

(註)2018年の15~64歳の「生産年齢人口」は前年比51万2千人減の7545万1千人。総人口に占める割合は59.7%で、1950年以来最低となりました。

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フレックスタイム制改正の要点

1.フレックスタイム制の本質

 平成31年4月1日施行の改正労働基準法の中には、フレックスタイム制の改正が含まれています。フレックスタイム制の本質は、「1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働させたとき、割増賃金を支払うことという原則に対して、清算期間(1箇月が主流)を平均したところの1週間の労働時間が法定労働時間を越えない限り、割増賃金を支払わなくてよいことにする」という仕組みです。ここから、労使協定で予め定めておかなければならない清算期間における総労働時間の上限は、清算期間を1箇月と仮定すると、次の式になるわけです。
清算期間の暦日数÷7 × 1週当たりの法定労働時間
1月当たり30日:30 ÷ 7 × 40 = 171.43
1月当たり31日:31 ÷ 7 × 40 = 177.14

(フレックスタイム制の要件)
(1)就業規則等で、始業及び終業の時刻を従業員の決定に委ねる旨の規定を設けておく。
(2)労使協定で以下の点を決めておく。
 ① 対象者の範囲
 ② 1箇月以内の清算期間
 ③ 清算期間における総労働時間
 ④ 標準となる1日の労働時間


2.改正法の内容

 新年度に施行された改正法の要点は、以下の点です。
(1)清算期間の上限が1箇月から3箇月に変更されました(第32条の3第1項)。
(2)1箇月超の清算期間の場合、1箇月毎に区切った期間について、1週間当たりの労働時間が50時間を超えないこととされました(第32条の3第2項)。
(3)完全週休2日の事業場において、労使協定で定めることを要件に法定労働時間を8時間×清算期間における所定労働日数までとすることができるようになりました(第32条の3第3項)。
 (例)清算期間1箇月で30日の月、祝祭日なし、土日が8日となった場合
 計算上の法定労働時間=40×30÷7≒171.43時間
 所定労働日数22日×8=176時間 
 この矛盾を解決するため、この場合には、労使協定に定めることを要件に176時間を法定労働時間とみなす。
(4)1箇月超の清算期間の場合、労使協定の届出が義務化されました(第32条の3第4項)。
(5)1箇月超の清算期間の場合、労使協定の締結事項について、有効期間の定めが追加されました。

 改正前の清算期間が1箇月の場合、清算期間における総労働時間を超えて労働したとき、総労働時間分の賃金のみを支払い、総労働時間を超えて働いた時間分については次の清算期間中の総労働時間の一部に充当する方法が許されるかといえば、当該清算期間内における労働の対価の一部が当該期間の賃金支払日に支払われないことになり、労働基準法24条違反と解釈されます。従って、超過勤務時間を翌月に繰り越して、翌月の所定労働時間を短くするという取り扱いはできなかったのです。一方、実際の労働時間が、清算期間における総労働時間未満だったとき、不足分(総労働時間-実労働時間)を次の清算期間中の総労働時間に上積みして労働させることは、最初の清算期間内において実際の労働時間に対するより多い賃金を支払い、次の清算期間でその分の賃金の過払分を清算するものと解釈され、24条違反の問題は生じないと解釈されます。また、不足分については、年次有給休暇の申請を清算期間終了後の一定の期日までに行うという選択肢を就業規則等に盛り込んでおくことも一考に値します。

 今回改正で、2箇月または3箇月単位で労働時間の長短を調整できるようになり、より柔軟な運用が可能になったとされています。しかし、清算期間が長くなる分、時間外労働時間および不足時間の管理がより複雑になります。また、過重労働を防止する観点から、1箇月毎に区分した期間について、平均して1週間当たり50時間を超えないことという規制が新たに設定されたことにも注意が必要です。

 清算期間を2箇月または3箇月単位にしたときの時間外労働時間の計算は、具体的には次のようになります。4月から6月の3箇月を清算期間とする場合、
(1)総労働時間の上限= 91÷7×40 = 520時間
(2)4月の週平均50時間となる月間の労働時間の枠 = 50×30÷7 =214.2
   5月の週平均50時間となる月間の労働時間の枠 = 50×31÷7 =221.4
   6月の週平均50時間となる月間の労働時間の枠 = 50×30÷7 =214.2
(3)各月毎に支払われる時間外割増賃金
   (4月の労働時間-214.2)=A (ただし、負数の場合0)
   (5月の労働時間-221.4)=M (ただし、負数の場合0)
   (6月の労働時間-214.2)=J (ただし、負数の場合0)
 (註)60時間を超える場合、5割増
(4)清算期間終了時に支払われる割増賃金
   520時間-実労働時間総計-(A+M+J)

 冒頭でも触れた通り、フレックスタイム制は、「1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働させたときは、割増賃金を支払うこと、という原則に対する例外」に過ぎません。上記の例で、(3)週平均50時間となる月間の労働時間の枠を超える時間外労働は行っていないが、(4)の清算期間終了時に初めて生じる時間外労働だけという場合があります。このような場合でも、法定割増賃金、深夜割増賃金は、フレックスタイム制の例外措置の対象にはならないので、原則通り、清算期間中であっても毎月支払われることになります。

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上限規制の特例(適用除外等)

 本日は、平成31年4月1日です。いよいよ本日より、改正労働基準法の時間外労働の上限規制、年休5日指定付与義務、フレックスタイムの清算期間の上限延長(3箇月まで)、および高度プロフェッショナル制度の導入など、働き方改革関連の改正法が施行されます。とはいえ、世間の注目は、御代替わりに先行して公表された新元号に集中していた感がありました。本日正午前に菅官房長官によって、新元号は、「令和」と発表され、正午を過ぎて安倍総理大臣から、新元号に託す思いなどが国民に向けて説明されました。出典は、万葉集からで、元号発祥の国の古典ではなく、我が国の最古の歌集からという、新時代にふさわしい試みとなりました。働き方改革も、新たな元号とともに、良き方向に向かって進んで欲しいと願います。

 さて、時間外労働の上限規制には、中小企業向けには1年間猶予される措置があるほか、特定の業種に対する適用除外や、適用猶予といった特例措置が存在します。今回は、それらを忘れないために、以下にまとめてみました。

1.新技術、新商品等の研究開発の業務(改正労基法36条11項)
 専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する新技術、新商品等の研究開発の業務については、上限規制が適用されません。そのため、対象者が、1週間当たり40時間を超えて労働した時間が1箇月当たり100時間を超えた場合、当該労働者について、本人の申出がなくても、医師による面接指導が必須とされています。つまり、このような労働者についても、使用者は時間管理をしっかりと行うことが義務付けられているということです。

2.建設事業(改正労基法139条)
 建設関係の事業、事業場の所属する主たる事業の建設関係事業である事業場における事業、および建設現場の交通誘導警備の業務は、時間外労働の上限規制の適用が当面猶予されます。猶予される期間は、平成31年4月1日から令和6年3月31日までの5年間です。

3.自動車運転業務(改正労基法140条)
 物品または人を運搬するために、自動車を運転することが労働契約上の主として従事する業務となっている者は、時間外労働の上限規制の適用が当面猶予されます。猶予される期間は、平成31年4月1日から令和6年3月31日までの5年間です。5年経過後の令和6年4月1日からは、上限規制が年960時間となります。従って、時間外と休日労働の合計が、月100時間未満、2から6箇月平均80時間以内とする規制、時間外労働が月45時間を超えることができるのが年6箇月までとする規制は、どちらも適用されません。

4.医 師(改正労基法141条)
 医業に従事する医師については、平成31年4月1日から令和6年3月31日までの5年間、時間外労働の上限規制の適用が猶予されます。猶予期間経過後は、医療制度の維持および医師法に規定される応召義務などが勘案されて、省令で定めるとしています。現在、原則として時間外および休日労働の上限年960時間、地域医療確保暫定特例水準としての時間外および休日労働の上限1860時間などの案が挙がってきている模様です。

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