定年後の再雇用で賃金格差は違法か_長澤運輸事件最高裁判決

 定年退職後に嘱託社員として継続雇用されていた従業員が、定年退職以前と同じ仕事をしていたのに賃金が大幅に減額されたのは不当として訴えていた長澤運輸事件について、賃金引下げを不合理ではないとした高裁判決を結論としては支持しました。ただし、精勤手当の不支給については不合理との判断を下しました。この事件、一審では原告の従業員側が勝訴、二審では、継続雇用された嘱託社員について、かかる待遇をするのは社会通念上一般的として原告の敗訴となっていました。

 最高裁は「労働条件の差が不合理か否かの判断は賃金総額の比較のみではなく、賃金項目を個別に考慮すべきだ」との初判断を示しました。賃金項目を個別に検討し、全営業日に出勤した正社員に支給される月額5000円の「精勤手当」について、嘱託社員に支給されない点を「不合理」と判断、この部分の東京高裁判決(2016年11月)を破棄し、会社に対して相当額の5万~9万円を3人に支払うよう命じました。

 その他の基本給や大半の手当については、3人が近く年金が支給される事情などを踏まえ、格差は「不合理ではない」として請求を退け、精勤手当に連動する超勤手当の再計算の審理のみを同高裁に差し戻しました。

 そもそも、高年齢者雇用安定法で65歳までの雇用が事業主に義務付けられた背景は、老齢厚生年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられたことと強い相関関係があります。国は、従来の60歳定年制では、60歳から65歳の間の無年金者の生活保障を企業にお願いしたということです。ですから、いくら「同一労働・同一賃金」とうそぶいてみたところで、定年後の嘱託社員の待遇について、一審で下されたような紋切り型の判断はできなかったと思われます。そういう意味で、今回の最高裁判決は、玉虫色の印象をぬぐえないと思います。とはいえ、我が国の労働市場における生産年齢人口の急速な減少という現実に目を向けると、人材確保のためには、定年自体の延長が近い将来にも必須となってくることが予想されます。そうだとすれば、60歳代前半の嘱託社員そのものが、消滅してしまうかもしれません。

 また、この日最高裁は、契約社員のドライバーが、正社員にのみ諸手当等が支給されるのは労契法に抵触する不合理な労働条件として差額を求めた訴訟、ハマキョウレックス事件については、通勤手当など4種類の手当の格差を不合理とした高裁判決を支持したうえで、皆勤手当についての格差も「不合理」と判断しました。

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働き方改革関連法案を閣議決定

 裁量労働制に関する厚生労働省の調査に不適切なデータが見つかった問題、財務省による森友文書書き換え問題、日本年金機構の外部委託問題、そして、防衛省によるイラク日報の問題と官僚機構による失態が目につく第169回通常国会ですが、本日の日本経済新聞電子版は、6日の閣議で、政府が働き方改革関連法案を決定したと伝えています。労働時間でなく成果で賃金を払う「脱時間給制度」を導入、残業時間に上限規制を設けるほか、非正規労働者の待遇を改善する「同一労働同一賃金」も導入が盛り込まれており、生産性向上に向けアベノミクスを推進するための柱となる法案と位置づけています。野党は脱時間給制度に反対しており、今国会の与野党対決の焦点になりそうです。


=== 日本経済新聞電子版 平成30年4月6日から一部転載 === 

 労働基準法や労働契約法など8本の改正案で構成する。成立すれば、多くの項目は2019年4月から適用する。ただ残業時間の上限規制は大企業が19年4月とする一方、中小企業が20年4月から適用する。同一労働同一賃金は大企業と派遣事業者が20年4月、派遣を除く中小企業が21年4月からだ。加藤勝信厚生労働相は記者会見で「今国会で成立するように、最大限努力したい」と述べた。菅義偉官房長官は「違法残業を根絶する切り札だ。長時間労働の是正で、多様な働き方を実現し、生産性向上にもつなげる」と強調した。

 日本の労働法制で初めて導入する脱時間給制度は、金融のディーラーやアナリストなど高度な専門的知識を持つ人に限定する。年収1075万円以上の人が対象となる見通し。労使で合意すれば、労働時間などから給与を計算する労働基準法の規制から除外する。健康確保のために、年間104日の休日を確保しなければいけない。

 長時間労働に歯止めをかけるため、超えてはいけない残業時間の上限規制をつくる。時間外の労働時間は月45時間、年360時間を原則とする。特別な事情がある場合でも、年720時間、月100時間未満を上限にする。月45時間を超えるのは年に6カ月、平均80時間を限度とする。事業者は前日の終業時間と翌日の始業時間に一定の休息の確保に努めなければいけない。上限規制については中小企業を指導する際に、労働基準監督署が各企業の経営状況を考慮するとの趣旨の付則を加えた。

=== 転載終わり(下線は浅草社労士) ===

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裁量労働制適用業務拡大の要件

 森友文書書き換え問題で、近頃巷間ではあまり話題に上らなくなってきた感のある働き方改革関連法案です。その中で、裁量労働制の適用業務拡大については、議論の前提となる厚労相のデータに判断を誤らせる虞の高い不適切なものが含まれていたことから、今回の法案から削除されることになりました。ここでいう、適用業務の拡大とは、次の通りですが、それにしても分かりにくい表現です。
(1)事業の運営に関する事項について繰り返し、企画・立案・調査・分析を主として行うとともにこれらの成果を活用し、当該事業の運営に関する事項の実施状況の把握・評価を行う業務
(2)法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析を主として行うとともに、これらの成果を活用し、当該顧客に対して販売・提供する商品・役務を専ら当該顧客のために開発し、当該顧客に提案する業務(主として商品の販売・役務の提供を行う事業場において行う場合を除く)

 要するに、企画型裁量労働制に、決まった商品の販売ではなく、顧客の需要に応じて柔軟に新商品や新企画を提案してゆく形の提案型営業を加えると大雑把に理解すればよいのではないかと思われます。これに関して、経済評論家の森永卓郎氏は、NHKラジオの番組で、次のような見解を述べておられました。企画型裁量労働制は複雑化・多様化する働き方の一つとして、存在意義は決して小さくないのですが、その際限のない拡大適用には明確な歯止めが必要です。その要件として、ご自身の経験も踏まえ、次の2つを挙げておられました。

(1)絶対評価の賃金制度
  2倍働いて、2倍の成果をあげたら、賃金も2倍支払うといった、成果に応じた賃金。

(2)決して「ノルマ」を課さない
  最終的には、労働者自身が仕事をするか否かを決められること。「否」を選択した場合、(1)により当然賃金は少なく支払われることになります。

 そもそも、「ノルマ」を課す余地のあるような形の仕事には、裁量労働制は向かないのではないか。だとすれば、提案型営業とはいえ、営業という名がつく以上、この種の業務に企画型裁量労働制を拡大適用できるのるかどうか、よくよく検討してみる必要がるといえます。

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裁量労働制の論点

 働き方改革関連法案が議論されている国会で、俎上に上せられているのがいわゆる「裁量労働制」です。今回の法案で、広義の裁量労働制がらみと思われるのは、これまでもあった企画業務型裁量労働制をより柔軟に適用できるように改正しようというものと、特定高度専門業務・成果型労働制の新設の二つです。そのうち、裁量労働制で働いている労働者の勤務時間に関する調査内容に不備があったとして、今回の法案の中から削除されることになったのが企画立案型裁量労働制を拡充する内容の改正案です。

 企画立案型裁量労働制の拡充というときの要点は、次の2つの業務を対象業務として追加するということです。
(1)事業の運営に関する事項について繰り返し、企画・立案・調査・分析を主として行うとともにこれらの成果を活用し、当該事業の運営に関する事項の実施状況の把握・評価を行う業務
(2)法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析を主として行うとともに、これらの成果を活用し、当該顧客に対して販売・提供する商品・役務を専ら当該顧客のために開発し、当該顧客に提案する業務(主として商品の販売・役務の提供を行う事業場において行う場合を除く)

 何ともわかりにくい定義で、具体的にどういう業務が該当するのか、想像するのも困難です。私見ですが、裁量労働制とは、仕事の内容や就労時間が事業主の意思によって左右されろことになじまず、労働者自身の裁量にゆだねられているとした方が常識の範囲内で適当とみなされる業務というようなことではないでしょうか。すぐに想起されるのが、専門職型裁量労働制の方に入る「新聞社や通信社の記者」などです。

 問題は、裁量労働制を違法に拡大適用して、時間外手当を支払わずに労働者を長時間働かせる方便にするような悪徳経営者を世にはびこらせることにつながるのではないかという懸念です。過去に起こった問題事案を新聞が伝えています。

=== 日本経済新聞電子版 平成30年3月5日 ===

 裁量労働制を不当に適用し、労働基準監督署から是正勧告を受けていた野村不動産で、50代の男性社員が長時間労働が原因で自殺し、労災と認定されていたことが4日、分かった。男性は裁量労働制を不当に適用されていた社員の一人だった。

 男性は2016年に自殺。勤務記録などを労基署が調べたところ、自殺前の1カ月の残業時間が180時間を超えていたという。労基署は長時間労働による過労が原因の自殺と判断し、17年12月に労災認定した。

 野村不動産は、本来企画立案などの業務が対象の裁量労働制を営業活動を担当する社員に不当に適用。残業代未払いや違法残業などがあったことから17年12月、東京本社や関西支社など全国5事業所が労働基準監督署から是正勧告を受けた。このとき東京労働局は社長に対し、是正の特別指導をする異例の対応を取った。社員約1900人のうち自殺した男性を含む約600人に裁量労働制を適用していたという。裁量労働制は労働者の裁量で勤務時間などが柔軟に決められ、1日8時間の上限が適用されない。デザイナーや編集者など専門性が高く時間管理が難しい業務が対象となるが、営業は対象外。

=== 日本経済新聞電子版 平成30年3月6日 ===

 加藤勝信厚生労働相は5日の参院予算委員会で、働き方改革関連法案から切り離した裁量労働制に関し、対象者の健康確保措置の強化も議論し直す方針を示した。「全面削除し、実態を把握した上で議論していく」と語った。高度専門職を労働時間規制の対象から外す脱時間給制度については、今国会に提出する法案に「盛り込む方針で議論している」と強調した。

 法案には裁量労働制の拡大とともに、勤続3年以上との適用要件や、終業から始業までの時間確保など、裁量労働制で働く人の健康確保措置を企業に義務化する内容を盛り込む予定だった。

 野党は裁量労働制を適用された野村不動産の男性社員が自殺したことを取り上げ、裁量労働制の拡大に反対した。安倍晋三首相は「労働基準監督署が、様々な情報を入手しながら適切な指導を行っていくことが大切だ」と指摘した。男性は2016年9月に自殺し、遺族の労災申請を受けて、17年12月に東京労働局が労災を認定した。

=== 転載終わり (下線は浅草社労士) ===

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大企業 再雇用から定年延長へ

 生産年齢人口の減少による人手不足が顕在化する中で、大企業を中心に60歳定年再雇用から定年そのものを延長したり、再雇用による待遇変更を抑制する動きが出てきているようです。需要が供給を上回る比較的好調な経済状況下ならば、意欲ある60歳以上の者にも現役時代並みの仕事とそれに見合った待遇を用意して士氣が下がらないようにすることは、必然的な成り行きといえます。人手不足が賃上げおよび消費拡大につながれば、我が国は10年以上苦しんできたデフレからの明確な脱却に向かってようやく立ち上がれることになると思われます。

=== 日本経済新聞電子版 平成30年2月14日 ===

 明治安田生命保険は2019年4月からの定年延長に伴い、60歳以上の給与水準を60歳前の7~8割程度に維持する。ホンダも60歳以上の給与を59歳時点の半分から約8割に引き上げた。25年までに厚生年金の支給開始が男性で65歳に引き上げられ、定年や再雇用で収入が減る「60歳の崖」が課題となっている。人手不足が続くなか、経験豊かなシニアの士気低下を防ぎながら、雇用を維持する動きが広がってきた。

 明治安田生命は19年4月から定年を60歳から65歳に延長する。これまでは定年後、嘱託社員として再雇用してきたが、補佐業務に限定されていた。定年延長に伴って、経営管理職や支店長職など責任の重い職務にも就けるようにする。職務内容によるが、60歳以上の給与は再雇用に比べて2~3倍に増え、50歳代より給与が上がる例も出る見通し。同社は今後20年で、バブル期に大量採用した社員の退職などで、総合職の2割弱の1700人分の労働力が失われると試算。定年延長で700人相当の労働力確保を見込む。総人件費は一時的に増えるが、生産性向上などでコスト増加分を吸収できるとみる。岡村製作所は3月から定年を段階的に65歳に引き上げ、給与を60歳前と比べて平均約75%の水準で維持する。労働条件は変えない。

 13年の改正高年齢者雇用安定法施行で、企業は定年後も働きたい社員を65歳まで雇用しなければならない。8割の企業は、給与が定年前の半分程度に下がる嘱託などで再雇用してきた。 ただ、経団連の調査によると、企業の53%が「再雇用後の処遇の低下などでシニアのモチベーションが低下」と回答。シニアの士気を高めながら、雇用を継続できるかが課題となっている。

 ホンダは「60歳以降も働くモチベーションを高める」(尾高和浩執行役員)ため、17年4月にグループ社員4万人を対象に定年を延長した。従来の再雇用制度では給与は59歳時点の半分払っていたが、定年延長では8割程度を払う。定年延長で海外勤務となるケースが増えることが予想され、海外工場でのノウハウ伝承などにもつなげる。東急不動産ホールディングスグループの東急コミュニティーは1月、定年延長の対象者を拡大。「人材流出を防ぐためにも給与改善を決めた」(人事部)

 総務省によると、17年の労働力人口は6720万人と16年比47万人増えた一方で、25~44歳は2664万人と同43万人減った。少子化で若者層の労働力確保が難しくなり、人手不足も深刻化している。経験豊富なシニアを定年延長などで確保する企業が今後増えそうだ。

=== 転載終わり (下線は浅草社労士) ===

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